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166 趣旨

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 ボール遊びをしようと、公園にやってきた二人の女の子。
 だけどあいにくと野球をしている男子たち。九対九どころか、両チーム合わせて一クラス分くらいの大所帯。
 公園では、ボール遊びが許されている場所が限られている。
 抗議したところで多勢に無勢。するだけムダと判断した幼女たちは、早々に退散。

 他の遊びをしようとするも、今日の公園は大盛況。どこもかしこも子ども、子ども、あと老人。健康遊具を取り入れたおかげで、近頃、ムキムキなお年寄りが増殖中。
 思いのほか、短気で負けず嫌いな彼らは、張り合ってトレーニング。おかげで近在の健康志向がグンと高まり、役所もしてやったり。

「たまには、こんな日もあるよね」

 園内の屋根のある休憩所のベンチにて、よっこらせと腰を下ろし、つぶやいたのはミヨちゃん。遊べそうな場所を求めて歩き回ったせいか、キャラメル色のくせっ毛が、じんわりと汗で濡れて、ちょっとへたっている。今日は球技があまり得意ではないので、ドッジボールを受ける練習をしようと考えていた、小学二年生。たまに年寄りくさい台詞が出るのは、そっち方面との交流が広いから。
 手にしたボールを抱えて、コクンとうなづいたのはヒニクちゃん。ドッジボールをすれば、わりと最後まで残っちゃうけど、格別何かをしているわけじゃない。気配を消すとか忍者みたいなマネができるわけでもない。たんに的が小さくてボールを当てづらいだけのこと。顔面禁止ルールがあるので、狙うのは体。だが華奢なので、そこも微妙にムズかしい。ボールが飛んできても、単に体の向きを九十度ほど動かすだけで、だいたいかわせる。
 そもそもボールをとる気がないので、ひたすら回避に努めるものだから、すこぶる当てづらい女の子。

 ミヨちゃん、ベンチのすぐ脇にあるゴミ箱から、ガサゴソと漁ったのは捨てられた週刊誌。行儀が悪いのはわかっているけれども、これもまた貴重な情報源。
 なにせ公園は情報の宝庫。
 井戸端会議中のオバさんたちの会話。集った子どもらの無邪気なやりとり。老人たちの愚痴から見える社会の真相。そして落ちている雑誌。

「えーと、ナニナニ」

 一丁前に足を組んで、ふむふむとアゴに手を当て、ページをめくるミヨちゃん。
 おっ、と幼女が興味を惹いた記事は、とある地方都市の警察署にまつわる騒動。
 署員の何人かが、地元のヤクザと組んで、不正に手を染めていたことが、スクープされたモノ。「多数の警察官が不正に関与!」
 かなり煽情的な内容にて、大いに世間を賑わせた。
 その続報の記事。
 なんでもこの一件が報じられたせいで、その警察署には連日、抗議の電話が鳴りっぱなし。おかげで通常業務にも支障をきたす。
 これを業務妨害だと怒った所長さん。出版社に猛抗議。一部の人間の悪事を、さも署全体が加担したかのような、一方的な報道はいかがなものかと。
 抗議を受けて、週刊誌が次号にて何と書いたのかというと「○〇署の一部、懸命に働く」
 一部というのが、イヤ味でユニークが効いていると、これまた話題に。

「おもしろいけど、悪さをした人たちはどうなったのかな?」

 肝心なことがソッチのけで、ちょっとおかしいよね、とミヨちゃんがふしぎがったところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「高度な印象操作、かも」

 警察と地元ヤクザとの癒着という壮大な絵図だったのが、
 フタを開けてみれば、一部の署員のセコイ不正のみ。 
 だからってお茶を濁しちゃ、本来の趣旨から外れて、本末転倒だと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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