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170 お便り
しおりを挟む下校時に、ちょっと土手の遊歩道から河原へと降りたのは二人の女の子。
ランドセルを下ろし、その辺から適当な石を拾っては、「とわー」と川に投げていたのはミヨちゃん。性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているけど、いろいろと心にタメることもある。たまには無心になって、体を動かし、ストレス発散をしないとやってられない小学二年生。
その隣では、拾った石を見事なサイドスローで投げる、ヒニクちゃんの姿があった。
彼女の手より放たれた石は、水面をぴょんぴょんと十回以上も跳ねて、ついには向こう岸付近にあった木の杭に当たって、カツンと音を立てた。
「すごい! すごい! どうやったの?」
今日は、ちょっと男の子たちにイジワルをされて、気分を害していたミヨちゃん。
そんなこともすっかり忘れて、こっちに、もう夢中。
ヒニクちゃんは、平べったい石をいくつか拾ってくると、やり方を教える。
初めはドボンと沈んで、うまいこと水面を跳ねなかったミヨちゃんの石も、四ほど回数を重ねると、コツを掴んだのか、ぴょこぴょこと跳ねだした。
これには幼女も大喜び。イライラはすっかりどこへやら。
いつもの調子になった親友に、ヒニクちゃんも、ほっとする。
水切り遊びを楽しむ幼女たち。
さすがに連投の疲れが出始めて、石の跳ねる具合も悪くなってきたところで、ちょっと休憩。
河原にある大きな石の上に腰を下ろす。
額の汗をハンカチで拭うミヨちゃん。
陽射しを浴びてキラキラと輝く水の流れを前にして、「そういえば……」と口にしたのは、これまでとは、まったく、なんら、いちミリたりとも脈絡がない、裁判員のこと。
どうやら制度が上手く機能していないらしい。
時間と労力のわりには、結果が反映されない。前例を盾にとって、当たり障りのない解しか用意できない。民意なんてまるで汲まれない。だったら外部からわざわざ人を呼ぶ意味があるの? 拘束時間も長いし、精神的負担も大きい。それに何故だか、仕事やプライベートが忙しい人のところに通知が行く。
世の中、時間と暇を持て余している人も大勢いるのに、そういう人のところには、ちっとも協力依頼が来ない。
いっそのこと、やりたい人、興味のある人に、任せてみればどう?
というようなことを言い出した。
ミヨちゃん、まだまだ、いろいろとタメこんでいたみたい。
光が強くなるほど、影が濃くなるモノ。はたして人が真からストレスより解放される日は来るのだろうか……。
などと思いつつも、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「新しい苗木を育てるには時間がかかる」
新しいことを始める。それは挑戦と失敗のくり返し。
でも心配ご無用。これからは裁判員の参加率はイヤでも上がる。
なにせ暇と金を持て余したお年寄りが、じゃんじゃん、増えていくと思うから。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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