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172 家事
しおりを挟む商店街の入り口付近に人だかり。
中心では、声を張り上げている赤いスーツ姿の女性の勇ましい姿が。
市議が木箱の上に立って遊説中。
女が家を守る時代は終わった。でもまだまだ外は男社会。だから、これからもいっそう励んで、女性の地位向上と社会進出を目指しましょう。
といったことを声高に叫んでいる。
この市議さんは、とってもパワフルにて、ハキハキとモノを言うことで人気がある人物。だけどちょっと押しが強いので、頼り甲斐がある反面、それを苦手としている人も多い。
聴衆のほとんどは女性。
話している内容が内容なので、どうしてもそうなりがち。たとえ男性が賛同していようとも、この輪に飛び込むには、かなりの勇気がいる。
気の毒なのは、カップルとか夫婦連れで、この中に紛れ込んでしまった殿方。
周囲の視線が心なしか鋭い。まるで針のむしろ状態。なんとも肩身の狭い姿を見ていると、心がチクチク痛む。
そんな様子を遠目に眺めていたのは、二人の女の子。
性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。社会進出うんぬん、女性がんばれ、といった主張には賛成するも、だからとて家で頑張っている女の人たちを否定するかのような物言いが、ちょっと気に入らない小学二年生。
極端に無口な性質につき、一日平均百文字前後で過ごす。自他共に認める無愛想な能面女子のヒニクちゃん。思想信条についてはともかくとして、あのスーツの赤はちょっと……と考えている小学二年生。
二人は幼稚園時代からのつき合い。
キャラメル色のくせっ毛を引っ張られて、男の子にイジメられていたミヨちゃんを、ヒニクちゃんが助け出して以来の大の仲良し。
右のカミソリフックの一撃にて、年長のいじめっ子を黙らせたヒニクちゃん。
その雄姿を目の当たりにしてから、ずっとミヨちゃんは彼女にぞっこん惚れ込んでいる。
幼女たちの前では、まだまだ遊説が続いている。
そろそろ夕方の買い物ピーク時に差し掛かるのだが、商店主らの迷惑もお構いなし。ますます気勢をあげる女市議さん。
おかげで商売あがったりだと八百屋の店主がブツクサ。
「男の人も家の手伝いをするのは、いいと思うけど、外でのお仕事のじゃまをするのは、なんだかちがうよね」とミヨちゃん。
心の友の嘆きにも似たつぶやきを耳にして、長らく閉じていたヒニクちゃんの口が、おもむろに開かれる。
「家事に男も女もない」
相手がみつからなかったら、一人で過ごすことになる。
自分でやることになるのは、男も女も一緒。
だから性別関係なしに、出来るにこしたことはないと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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