ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

177 続犯罪思考

　
　交番にある指名手配犯の情報が載った掲示板の前にて、まさかの空き巣談義に花を咲かせていたのは、下校途中の二人の女の子。
　真っ赤なランドセルが良く似合うミヨちゃん。今夜は好きな役者が出演しているドラマがあるので、楽しみにしている小学二年生。
　自他ともに認める無口な能面女子のヒニクちゃん。仲良しのミヨちゃんがとっても楽しみにしているドラマなのだが、今朝の新聞にあった番組解説欄にて、盛大にネタばれされていたのを知っているから、心中とっても複雑。うっかり漏らさないようにと、いつも以上に、お口にチャック状態。

　二人は空き巣の手口やら、考え方、狙われそうな家や、気をつけるべき防犯ポイントなどについて、独自の見解をくり広げていく。
　なにぶん幼女にて、核心をつくモノもあれば、的外れなモノや、とんちんかんなモノも多分に含まれている。
　これには立番中のお巡りさんも、ちょっと困り顔。訳知り顔にて乱入するのは大人気ない。だからとて小さな子らの誤った認識を放置してもよいものか。
　どうしたものかと思案していると、その表情が急に険しくなった。

「なんでも、下しらべが大事なんだって」

　話題にしていた内容はともかく、それなりに子ども子どもとしたやりとりだったのが、ここにきて、急に具体的な手口に関する情報が漏れ聞こえてきたからだ。
　もしや幼女らの近くに、卑劣な犯罪者が潜んでいるのかもしれないと考え、熱心に聞き耳を立てるお巡りさん。
　そうとは知らずに、無邪気？　に自分が知っていることを話していたのはミヨちゃん。

「あと現金以外は足がつくから、手をつけちゃダメだって、長さんが言ってた」

　長さんという具体的な名称が出てきたところで、ついにお巡りさんが口を挟む。

「ちょっといいかな？　その長さんって、どんな人かオジさんに教えてくれないかな」
「えーと、ジンギにあつくて、ナミダもろくて、昔かたぎのイブシギンなおじいちゃん」
「なるほど。それで、その人はどこに住んでいるのかな」
「前は家があったけど、ヤケちゃって、いまはあちこちウロウロしてるよ」
「そうかぁ。ところで長さんは、他に何か言ってたかい？」
「うーん。あとは……、ガラスを切るなんざヤボで、どうどうとドアから入るのが通？　だったかな」

　お巡りさんに訊ねられるままに答えるミヨちゃん。
　幼女の話からして、長さんなる泥棒は、どうやら鍵開けの名手らしい。ひと口に空き巣といっても各々が得意とする手口がある。侵入方法や経路にクセが出るので、それらを見れば、おのずと犯人を特定することも可能。あとは本庁のデータベースと情報を照合して、近隣の被害状況を調べれば、おのずと足取りも掴めるだろう。などと考えるお巡りさん。
　ミヨちゃんに礼を言って、踵を返して交番内へと入ろうとしたところで、彼の制服の袖をクイクイと引っ張ったのはヒニクちゃん。
　これまで二人のやりとりをじっと見守っていたのだが、ここにきておもむろに口を開いた。

「長さん、ドラマの人」

　壊さず、傷つけず、脅さず、気づかせない。それらを信条にした、
　その道、四十年のプロ。二時間サスペンスドラマの主役。それが長さん。
　最近のドラマや小説は、本格派思考がやや強め。作中の知識も侮れないと思うの。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。