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182 遊具
しおりを挟むカップル公園の敷地内には、大きなすべり台がある。
中二階ほども高さのあるコンクリートの塊の山。頂上からスキー場の初心者コースのような、なだらかな斜面が末広がり。終点の麓には砂場があって子どもたちを安全にお出迎え。ほどほどのスリルにて人気の遊具。
通はダンボールをお尻の下に敷いて、ソリに見立てて滑走する。こうするとスピードが倍となり、ズボンやスカートのお尻の安全が守られる。
もっとも勢いがつき過ぎて、最後は砂の海に飛び込むことになるけれど。
だが上には上がいる。達人ともなると、ついにはダンボールの上に立って、スノーボードの要領にて滑り降りる。
華麗に決めれば羨望の的だが、リスクが多いために怪我人が後を絶たず、ついには「立ち滑り禁止」の看板が立てられる事態に。
しかし大人の決めたルールに、静々と従う子ども達のワケもなく……。
パサリと脱いだジャケットを、看板の上にかけたのはヒニクちゃん。
極端に無口な性質にて、一日平均百文字前後で過ごす。たまに開いた口にて、ちょいちょい毒を吐いていたら、こんなあだ名が定着していた小学二年生。
手には小さなダンボール片。文庫本ほどのが二枚。さっき公園のゴミ箱から拾ってきたモノ。
悠々とコンクリートマウンテンへと登り、天辺より下界をしばし睥睨。
ハラハラした様子にて、こちらを見つめるミヨちゃんの姿が。
これに軽く手を振るヒニクちゃん。それから自分の左右の足下にダンボール片を敷くと、そのまま斜面を滑り出す。
立ったままの姿勢にて、シャーッと勢いよく降りてくるヒニクちゃん。
中腹にてクルリとターン。一切、態勢を崩すことなく、見事に完走して、優雅に着地まで決めてみせた。
とたんに沸く観衆。周辺にいた子らからは、惜しみない称賛と拍手が送られる。
では、なぜヒニクちゃんがこんな掟破りをしたのかというと、ことの発端は上級生の男の子たちのイジワル。
幼稚園の子にとっては、ここのスベリ台はとても大きい。遊ぶにもちょっとした勇気がいる代物。だからどうしたって動作がもたつく
それを「トロトロしてんじゃねえよ」と邪険に扱ったのが、男の子たち。
キチンと並んでいた列を守らず、横入りしただけでは飽き足らず、小さな子にイジワルをする。そして立ち滑りをしては悦に浸っている連中に、義憤に駆られたミヨちゃんが抗議。
すると「なんだ、こいつ、女のくせになまいきだ」と突き飛ばす暴挙。
これにヒニクちゃんの肩口で切り揃えられた黒髪が、ざわりと逆立つ。もしも慌ててミヨちゃんが止めていなかったら、血の雨が降るところであった。
日頃は無味乾燥なヒニクちゃん。だが、いったん火がつくと、乾燥している分だけよく燃える。それこそ地獄の業火のごとく。
友による懸命な鎮火にて、どうにか握った拳をといた。しかしただでは引き下がらないのがヒニクちゃん。
まるで彼らに見せつけるかのように、先の絶技を披露したというワケ。
格の違いを見せつけられた上級生の男の子たち。
このままでは引き下がれぬと、同じ技に挑戦するも、あえなく失敗。ツルっと転んで、ぶざまに滑り落ちて、頭から砂場へと突っ込むことに。
周囲から嘲笑を浴びせられて、スゴスゴとすべり台から退散する男の子たち。
遠ざかる敗者の背を見つめながら、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「よい子はマネしちゃ、ダメ」
外国製にて感性が違うのか、かなりシュールなデザイン。
難解な幾何学的な形状をした、やたらと難易度が高いのとか、
遊び方がまるでわからない謎の遊具。とりあえず導入する前に子どもの意見を聞け。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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