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198 元祖
しおりを挟む学校の美術の授業にて。
本日は二人一組にて、互いの顔をスケッチ。
仲のいい子同士とかにすると、いろいろとややこしい人間関係が浮き彫りになって、教室の空気が気まずくなるので、ヨーコ先生が強権を発動。
強制的に隣の席の子とパートナーを組むことに。
なお病欠などで欠員があるところは、適当な組に放り込んで、三すくみにて対応。
うまいヘタにかかわらず、自分の姿だけ描かれた絵がないのは、あまりにも可哀想なので……。
椅子を向かい合わせて、やいやい賑やかな子どもたち。
そんな教室の片隅にて、スラスラと絵筆を走らせていたのは、ミヨちゃん。性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているけれど、なんだかんだでみんなのために奔走する彼女の姿に、グッときている男子が密かに増殖中。
ミヨちゃんは作文とかお絵かきが得意。気負ってうまく描こうとはせずに、心のおもむくままに、素直に、感性に従う。自分の目で見たモノを感じるままに描く。
すると、たどたどしく歪んだ線が、ふしぎな魅力をともなって、見る者の心にスルリと入り込んでは、ほっこりさせる絵となる。そして迷いがないので、仕上げが早い。
「うしっ、できた!」
わずか十五分ほどで描きあがったのは、ヒニクちゃんの姿絵。
自他ともに認める極端に無口な能面女子。表情筋が仕事を放棄しているので、鉄面皮であるハズなのに、ミヨちゃんが描いたソレは、冷たい雰囲気がまるでなくって、どこか温かみがある。
描き手がモデルに抱く好印象が、そのまま滲み出ているかのよう。
これにはヨーコ先生、文句なしに「よくできました」と花丸をあげちゃう。
しかしヒニクちゃんの方は、そうはいかない。
作文を書かせれば、原稿用紙一枚でもプロットや結末を決めてからでないと、書き出せない子ゆえに、感覚のみで絵筆を走らせるなんてムリ。
シャッ、シャッと薄い線を引いては、目や鼻、口などの位置をキチンと定めて、顔の輪郭などのバランスを整える下書きを入念に行う。
まるで「キミも今日からマンガ家だ」とかいうタイトルのハウツー本にのっているような、基本的なデッサンのやりかたを踏襲している。
これだけみると、さも、いっぱしの腕前があるように見えるが、ここまでやっても出来栄えは、ちょっと残念。ヘタではないがウマくもない。歳相応の絵。
早々に自分の仕事を終えたミヨちゃん。
モデルに徹しつつ、退屈しのぎに話題にしたのは、世界一の微笑みといわれてる、某有名な絵のこと。
連日、満員御礼につき、ウハウハらしい。
「あれって、みんなスゴイ、スゴイ、っていうけれど……。言うほど美人でもないよね」
美意識というモノは時代の変遷にともない、変化する。ふくよかな女性がもてはやされた時代もあれば、色白の肌がやたらと重視されていた時代もある。国や文化が違うだけでも考え方がゴロっと変わる。
現代を生きるミヨちゃん的には、まぁ、美人さん? ぐらいの反応。
でも、それらを加味して、数百年を経てなお、おおくの人々を魅了するというのは、やっぱりスゴイことなのかもしれない。とも考えている幼女。
すると、ここで手元のスケッチより顔をあげたヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。
「あの人こそ、元祖美魔女」
五百年以上も、とんでもない数の人々をたぶらかした、衰え知らずの美貌。
時代を股にかけて荒稼ぎを続けているし、きっとこの先も続く。
たぶん人類史上、もっとも稼いでいる女性だと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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