上 下
219 / 1,003

219 穴

しおりを挟む
 
 給食にチクワの磯部揚げが出た。
 チクワが好物のミヨちゃん。たいそう喜ぶかに思えたのだが、食後の昼休み中に、なにやら不満顔。
 予算の関係か、かさ増しか、調理の関係かはわからないが、真っ二つに縦に割られた品。ソレがどうやら気に入らなかった模様。

「丸かじりこそが、チクワのだいご味なのに」と文句たらたら。
「いや、あんな揚げたヤツ、丸ごとなんてシンドイわよ」

 居合わせたクラスのオシャレ番長のアイちゃん、ミヨちゃんの発言に異議を唱える。
 そもそも花も恥じらう乙女が、大口を開けて、アーンとかしているのが論外だと言われて、ミヨちゃんとリョウコちゃんがツイと顔をそらした。
 なにせサッカー少女のリョウコちゃん。小学二年生にしてすっかり体育会系だから、食べ方も男子顔負けのかぶりつき。コッペパンもむしゃこら。いちいち、ちぎって食べたりなんてしない。

「そういえば、あんたらって、どっちも男兄弟だったわね。きっとそのせいよ。このままだとズルズルと引きずられて、おっさん化に一直線なんだから」

 おっさん化という言葉を受けて、ショックを隠せない二人。
 ぴちぴちの幼女に、これはヒドイ。ミヨちゃんとリョウコちゃん、がっくしとうな垂れる。
 三人のやり取りに、腹を抱えて笑っていたのはチエミちゃん。どうやらアイちゃんの言った「おっさん化」という言葉がツボに入ったみたい。

「あはははっ。ヤバい、笑いすぎておなかいたい。でも、おっさんって、おっさんって、ひひひ」

 こんこんと乙女のたしなみについて語るアイちゃん。
 やや放心状態にて、説教を受けるミヨちゃんとリョウコちゃん。
 横にてケラケラと笑い転げるチエミちゃん。
 その間近にて、影のように控えるはヒニクちゃん。
 なんとも平和でカオスな昼下がりの教室。

 ひとしきり騒いだ後に、すっかり忘れられていたチクワが再び話題に。

「そういえば、なんでチクワって穴あいてるんだ? なんだかソンしている気がする」

 チクワの穴は製造工程の産物。
 だがそんなことは知らないリョウコちゃん。単に中身がくり抜かれている分だけ、量が減らされている風に考えた。お菓子のエアチョコとかにも、ずっと疑問を持っていたようである。

「でも、穴がなかったらカマボコと同じになるんじゃないの」

 魚のすり身で作っていることは知っているチエミちゃん。
 彼女の意見に「確かにそうかも……」とアイちゃんも考え込む。言われてみると味や用途も似ている気がする。
 だがチクワが好きなミヨちゃんが、コレに猛反論。

「ぜんぜんちがうよ! 味も見た目もべつものだよ! 何より『チクワ』から穴がなくなったら、ただの『チク』になっちゃうよ!」

 竹輪と書いて、ちくわと読む。
 輪がなくなったら、ただの竹。もはやこれを見て食べ物と判断するのはパンダぐらい。
 わざわざチョークを手にとり、黒板にこのゆゆしき事態について、書いて説明するミヨちゃん。
 親友の熱弁を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「竹輪の穴は無限の可能性を秘めている」

 煮て良し、焼いて良し、炒めて良し、揚げて良し、生で良し。
 キュウリにチーズ、挽肉、ツナマヨ、明太子、かにかま、キムチ、エトセトラ。
 ちょうどいい穴があれば、埋めたくなるのが人の性だと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む

処理中です...