ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

224 命名権

　
　体育の授業中、地面に三角座りにて並び、鉄棒の順番待ちをしていた女の子たち。
　男子らは互いに競いあうせいか、わりとこの手の授業に熱心。だけど女子はそうでもない。
　リョウコちゃんのように運動が得意な子は、課題の技をするするこなすが、基礎体力や体型が適していない場合、一朝一夕にどうにかなるものでもない。もちろん努力はするけど、すぐに成果を求めたりはしない。
　ムキになってがんばっていたのは、せいぜい逆上がりぐらいまで。
　片足を鉄棒にかけて、振り子のようにくるんと回って登る「足かけ上がり」や、そのままの姿勢にて回転をする「足かけまわり」あたりから、怪しくなってくる。
　ヨーコ先生が補助をしてくれて、どうにかという子が増えてくるので、女子の方では自然と流れがもたつく。生徒の方もなんとなく「こんなもんだろう」とあきらめムード。
　そもそも手が鉄くさくなるし、お腹のお肉とか挟むと痛いし、うっかりすると手の平にマメがデキて、やっぱり痛い。体操服がペロンとめくれて背中が見えちゃったり、下手をするとパンツが見えてしまうことも。
　おかげでクラスの女子は鉄棒を好まない傾向が強め。
　だから待ち時間は鉄棒そっちのけで、もっぱらおしゃべりタイムになっている。

「そういえば、この前、ニュースで見たんだけど、新しいクモが発見されたって」

　とある学者が未開のジャングルにて、偶然にも見つけたという話。
　クラスのオシャレ番長のアイちゃん。都会っ子にて昆虫とかあまり好まなさそうに見えて、実はそうでもない。なんでも昆虫のフォルムや多様性、独特の柄や色などが、ファッションに通じるモノがあるとかで、貪欲にそちらにも食指をのばしている。

「アレだろ？　たしか名前に自分の娘の名前をつけたとかいうやつ。ちょっとさわがれてたよな」

　知ってると答えたのはリョウコちゃん。彼女のところには小さな弟がいる。男の子はカブトムシとかクワガタとかをやたらと好む時期があって、弟くんはその真っ盛り。ちょっとした昆虫博士なんだと、お姉ちゃんがプチ自慢するほど。

「星とかならロマンチックでステキなんだけど……。ムシだと、ちょっと素直によろこべないよ」

　チエミちゃんが眉間にシワを寄せ顔をしかめながら、話しに加わる。

「あー、たしかに」とリョウコちゃんとアイちゃん。

　なにせクモはクモだもの。
　これがキレイな花や羽が鮮やかな野鳥だとか、かわいい熱帯魚なんかだったら、自分の名前がついたら、うれしいのかもしれないが、相手は八本足にて蠢いているヤツ。ビジュアル的にもイメージ的にもあまり気持ちのいいモノではない。

「……わたしだったら、たぶんグレる」とミヨちゃんがポツリ。

　すると一番背の高い鉄棒にてぐるぐる大車輪をかましていたヒニクちゃんが、シュタッと見事な着地を決めて、おもむろに口を開いた。

「クモは昆虫じゃない」

　蜘蛛は、節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目。
　昆虫は、節足動物門大顎亜門昆虫綱。
　クモは八本足、ムシは六本足が基本。どっちもポン太の貴重な栄養源。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。