ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

文字の大きさ
227 / 1,003

227 となりの庭

しおりを挟む
 
 ヤマダ宅の、ささやかだけど日当たりのいい庭にて、盆栽の手入れをしていたのはミヨちゃんのおばあちゃん。
 齢ほにゃららを経てなお、かくしゃくとしており、夫と死別してからは、せっせとサークル活動に精を出している。
 盆栽いじりもその一環。とはいえそれほど本腰を入れているわけではないので、サイズは小さく両手の平に収まるほどの鉢ひとつ。手入れも水をやったり、少し枝ぶりを整えたりするぐらい。知識もほどほどしかないので、具合が悪くなったら詳しいサークル仲間に丸投げ。

 パチンパチンと鋏を鳴らしては、枝の先っぽを少しずつ刈っていく。
 そんな祖母の後ろ姿を、縁側よりぼへぇと眺めていたのは末孫のミヨちゃん。素直な性格と人懐っこさ。にぱっと笑うとのぞく八重歯。今時の子どもらのようにスレたところがなく、年寄りのくりごとにもちゃんと耳を貸す。おかげで近在の老人たちは、こぞって彼女にメロメロ。お年寄りキラーの異名を持つ小学二年生。
 知り合いには盆栽を趣味としている人も多い。だから幼女ながらもそれなりに理解はある。さすがに自分がやりたいとは思わないけど。
 ミヨちゃんの隣にて、熱い番茶をすすっていたのはヒニクちゃん。いろいろあってこんなあだ名が定着してしまったが、中身は友だち想いのいい子。趣味で家庭菜園をしているので、同じ植物を育てるという意味にて盆栽にもそこそこ興味あり。

「そういえば、最近、海外で流行ってるんでしょう」
「ああ、そうみたいだねぇ。まさかハリウッドのスターが盆栽をイジる時代が来るとはねえ。世の中、なにが流行るかわかったもんじゃないよ」

 ミヨちゃんの言葉に答えたおばあちゃん。ちょっと手を止めて、うんと背伸びをした。

「コイとかも人気だって、テレビで言ってたよ」
「錦鯉のことだね。むかしは庭にちょっとした池がある家では、たいがい飼っていたんだけど、この頃じゃあ、そんな家の方が珍しいから。だけど海の向こうでのブームのおかげで、すっかり業界も持ち直したとか」
「ガッポガッポ?」
「わざわざ金持ちどもが自家用ジェットで買い付けにやってきては、札束が飛び交っているって話だよ」

 おばあちゃんの話を聞いて「うぉー」と興奮するミヨちゃん。ウチでも飼おうとか言い出したが、それはムリ。だってヤマダ宅の庭に池はないもの。というか物干し台に半分ほど占拠されているので、とてもとても。

「そういえばウチの庭って何もないよね。ボンサイはするのにガーデニングはしないの?」

 おしゃれなアーチや、生垣の迷路、噴水に咲き乱れるバラ。
 英国風? とか少女マンガなどに登場する貴族の屋敷の庭園みたいなのを妄想しつつ、訊ねるミヨちゃん

「庭かい? それならわざわざやる必要がないからねえ」
「えー、せっかくだしキレイにすればいいのに」

 ちょっと不服顔のミヨちゃん。するとおばあちゃんは、二人の幼女らを連れだって、自宅の二階へと向かう。
 こちらにもベランダがあり、洗濯物がずらりと干されてある。
 二男一女に両親と祖母の六人家族ともなれば、洗濯物の量もけっこうなモノ。
 ベランダに出ると柔軟剤のニオイがプンと漂う。男臭を消すためにお母さんが多めに洗濯機に投入したようだ。少々鼻につくほど。
 飲み屋の店先にぶら下がっている暖簾(のれん)のように、それらをくぐり、柵のところまで。
 とたんに眼下に見えたのは、お隣の庭。
 愛想のないヤマダ宅とはうってかわって、色とりどりの季節の花が咲き乱れている。庭木も植木職人の手が入っているのか、青々として枝ぶりがよい。
 けっして敷地が広いわけではないのに、全体のバランスが絶妙なので、庭としての完成度が素人目にもひと目でわかる。趣味の域と考えれば十分すぎるモノ。
 どうやら近過ぎて気づけなかっただけで、楽園はすぐ隣にあったようだ。
 これにはミヨちゃんとヒニクちゃんも「ほー」と感心しきり。

「ほら? 庭に関しちゃ、コレで充分だろ」

 おばあちゃんの言葉にミヨちゃんも納得。
 一緒になってコクンとうなづいていたヒニクちゃん。その口がおもむろに開かれた。

「となりの芝は青い」

 自分のこと。自分の家のこと。自分の国のこと。自分の国の文化のこと。
 自分にとっては当たり前なこと。ありふれて色あせたことであっても、
 外から見ると、また違った魅力が再発見されることも多いと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

狐侍こんこんちき

月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。 父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。 そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、 門弟なんぞはひとりもいやしない。 寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。 かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。 のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。 おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。 もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。 けれどもある日のこと。 自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。 脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。 こんこんちきちき、こんちきちん。 家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。 巻き起こる騒動の数々。 これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

処理中です...