ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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 小学校の理科室にある水槽。
 一年生ぐらいならば、丸まれば入れそうな大きさ。
 元はメダカとかを飼っていたらしいのだが、今ではすっかり緑一色。
 世代がいくつも流れ、部屋を預かっていた先生の顔ぶれも入れ替わり、長らく放置され続けた結果、中身は不明。
 一時期、学校の七不思議のひとつに収まっていたこともあったのだが、あまりの地味さに自然と欄外へ。
 あまりにも自然とそこにあり続けるがゆえに、アレはそういうものだと、誰も気にもとめなくなっていた。
 しかし理科室の改装が決まったことにより、片づける必要が出て、にわかに注目されることに。
 中身はともかく水槽は学校の貴重な備品。年代モノゆえに造りは頑強。買えばいい値段がする。だから粗末に扱うわけにはいかない。
 そこで確認の後に掃除をして再利用という話となるのだが、問題は誰が行うのかということ。

 職員室にて厳正な抽選が行われた結果、当たりを引いたのはヨーコ先生。

「ちくしょー!」

 悔しげに叫んだ三十路手前の女教師は、教師特権を発動し、面倒事に教え子たちを巻き込んだ。
 教室にて厳正なるじゃんけん大会が行われた結果、チエミちゃん、ミヨちゃん、ヒニクちゃんの三名がアシスタントに任命される。

 放課後に理科室へと集合するヨーコ先生と三人の教え子たち。
 もしも中に生き物がいた場合、保護してあげないといけないので、それ用のバケツやら網やらを準備してから、いざ、作業へととりかかる。
 が、肝心の水槽がまったく持ち上がらない。

「重たっ。これはちょっとムリかも」とヨーコ先生。

 流し台まで持って行って、いっきにザバァと中身をぶちまける計画であったが、いきなり頓挫。
 気合を入れたらなんとかなるかもしれないが、かわりに腰が犠牲になる危険性が高い。
 ギックリ腰で休職とか、独身女教師としては、そんな不名誉を負うわけにはいかない。
 しばし思案の後に、横着せずに少しずつ水をバケツにかき出して、中身を減らすことにした。

 先生がせっせとかきだした水の入ったバケツを、リレーにて流しに運ぶ幼女たち。
 あまり重くすると子どものチカラでは厳しいので、一度に運ぶ水の量はバケツの三割ほどに抑える。
 謎の液体が、うっかり口にでも入ったらたいへんなので、念のために生徒らにはマスクとビニール手袋を着用させてある。
 初めは独特の臭気を放つ、ドロリとした緑色の液体に、顔をしかめていた先生や子どもたちも、作業に没頭していくうちに、じきに慣れた。

 半分ほど水槽の水を減らしたが、とくに生き物の姿は見られない。
 この調子ならば、じきに、持ち上げられるだろう。
 この頃になると、バケツリレーもすっかり流れ作業化しており、子どもらはおしゃべりする余裕すらあった。
 じきに残すところ三分の一ほどとなり、もう持ち上がるだろうと、水槽に手をかけるヨーコ先生。しかしやはり動かない。ミヨちゃんらも手伝うが、わずかに浮かんだだけ。
 これには四人とも小首をかしげた。

「ガラス製の水槽みたいだし、普通のよりも重いのかしら」

 疑問を感じつつも、地味な汲み取り作業に戻るヨーコ先生。
 そうやってコツコツみんなで頑張ること四十分ほど。
 ようやく底が見えてきたところで一同驚愕!
 水槽の中に沈んでいたのは、ビー玉とか砂利じゃなくって、ゴルフボールほどの銀の玉がいっぱい。
 一つを手にとって「えっ」と声をあげるヨーコ先生。
 玉はずっしりとしており、見た目よりもずっと重かった。
 どうやら鉄の表面にスチール加工が施された品のようだが、用途もここに沈められていた理由もまったくわからない。
 ただただ重たいだけの代物。
 ようやく水が終わったと思ったら、こんどは玉を取り出すハメに。
 うっかり足の上にでも落としたら、骨にヒビでも入りかねないので、慎重に扱わねばならず、改修作業にて更に時間を喰うことに。
 すべてを取り出し、水槽掃除が終了したのは、作業開始から一時間半もたってから。
 おかげですっかり遅くなってしまった。
 謎の玉の処分についてはヨーコ先生にまかせて、あわてて帰宅の途につくチエミちゃんたち。

「なんだったんだろうねぇ」「ふしぎだよねぇ」などと、ミヨちゃんとチエミちゃんが話しながら正門へと向かっていると、並んで歩いていたヒニクちゃんの口がおもむろに開かれた。

「理科室の水槽、七不思議に返り咲き」

 音楽室のピアノ、美術室の胸像、屋上へと続く階段、体育館のトイレ、用具室、
 中庭の小さなお堂、理科準備室のホルマリン漬け。これが当校の七不思議。
 トレードされるとしたら、用具室の謎のうめき声あたりだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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