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239 参観日
しおりを挟むいつもはヨレヨレの赤系のジャージにて、寝ぐせ頭にてクラスのオシャレ番長であるアイちゃんに、髪を整えてもらうことさえあるヨーコ先生が、ピシッとしたスーツ姿。
頭もキレイにされているところをみると、どうやら美容室に行ったようだ。
あと薄く化粧をしており、普段の様子を知らない人が見たら、どこからどう眺めてみても出来る大人の女教師に見える。
そして子どもたちもまた、いつもよりこざっぱりとした格好が目立つ。
それもそのはず、なにせ本日は授業参観日なのだから。
学校中の空気が朝からソワソワ。
いつもはハシャグ子どもたちで賑やかな朝の教室。
でも今日ばかりは、みんなちょこんと自分の席に座って、授業の準備に余念がない。見に来る親に、いいところを見せようと張り切っている子は、教科書とにらめっこ。
そんな中で隣の席の仲良しの子に話しかけたのはミヨちゃん。
「うちはおばあちゃんが来るんだって」
本当はお母さんが来る予定だったのだが、急に親戚が倒れたとかで、そちらの応援に出かけてしまったらしい。
おかげでヤマダ家の昨日の夕食は、商店街のソバ屋からの出前だったそう。
かき揚げ天ぷらが、やたらと刻んだゴボウでかさ増しされており、「あれじゃあゴボウ天だよ」とミヨちゃん。くすくすと控えめに笑う姿がとっても愛らしい。
「アイちゃんやリョウコちゃんのところはお母さんが来るって言ってたし、チエミちゃんのところはお父さんか」
ファッションデザイナーをしているアイちゃんのママ。きっとばっちり決めてくるんだろうねえとミヨちゃんが言うと、話しかけられていたヒニクちゃんがコクンとうなづいた。
そうこうしているうちに続々と生徒らの親御さんらが姿を見せ始めた。
手には携帯電話やカメラ、なかにはビデオをまわしている人までいる。
運動会のときとかには、わりと見かける光景だけれども、授業参観では珍しいかも。
教室の後ろや入り切れなかった面々が廊下に居並ぶ。
やはり群を抜いてオシャレなのはアイちゃんママ。なんていうか、いかにもデザイナー女史といった格好。タイトなスカートにてキビキビ歩き回っては、部下のお針子さんたちに指示を飛ばしている様が目に浮かぶ。
リョウコちゃんのお母さんはスリムなジーンズ姿。どうやら彼女の脚線美は母親ゆずりらしい。頭のポニーテールも同じ、そして娘とおなじ柄のシュシュで結っている。とっても仲良し母娘。
チエミちゃんのところのお父さんは背広姿。一時間だけ授業を見学した後に仕事に行くそう。容姿、能力、その他もろもろが平均値である、偉大なる凡の父もまた、凡であった。
ミヨちゃんのおばあちゃんは和服姿で登場。いい風合いの藍色の染め物。シャンとした立ち姿がとっても決まっており、女の子たちからは「かっこいい」と評判も上々。おかげでミヨちゃん鼻高々。
そんな感じでおもいおもいの格好にて教室に現れた大人たち。
しかし片隅の方に一部、空白地帯が発生している。
その中心にいるのは二メートルほどの体格のいいグラサン男と、全身を濃紺色でコーディネートしたロングスカートの髪の長い色白の女。
コヒニイサムとコヒニサユリ夫婦。
コヒニクミコこと、ヒニクちゃんのご両親。
未来からきた殺人サイボーグといにしえの魔女のごとき女性との組み合わせ。
その異様っぷり、行く先々にてざわめきが起こるので、二人が来校したことは二年生の教室にいてさえ、すぐに気がつくほど。
こうして面子がそろったところで授業の開始を告げるチャイムが、キンコンと鳴る。
それを聞きながらポツリとヒニクちゃん。
「今日の給食は揚げパン。デザートはフルーツゼリー」
本日は一日通しの参観日。最後まで付きあっても良し。
途中で帰るも良し。なお事前に申し込んでおくと一緒に給食も食べられる。
うちは両方とも最後までいるみたいだけど、大丈夫かちょっと心配なの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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