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247 あれの行方

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 突然だが、ミヨちゃんは水族館があまりスキではない。
 なぜならウヨウヨと魚どもが、彼女めがけて集まって来るから。
 モフモフを求めてやまない幼女は、すべてのモフモフから蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われる運命の星の下に産まれてしまった。
 だが闇の底にてうごめく者だからこそ、はるか天空にて輝く光を欲して、必死に手をのばし続ける。

 そんな悲しい人生を歩むミヨちゃん。
 モフモフ系には嫌われる反面、魚類とか虫類とかからは、とんでもなく好かれる。
 マーメイドプリンセスどころか海の王よりも圧倒的支持率。
 彼女が防波堤に立って海風を受ければ、どこからともなく魚群が集まり、見渡すかぎりがビッチビチ。
 釣りガールに転じれば、きっと、世界中の大会を総舐めにして、賞金女王に君臨し、伝説のフィッシャーレディとなるだろう。
 女漁師の道へと進めば、毎年度の年明けの初競り黒マグロの記録を更新し続けて、ギネスブックに載るに違いあるまい。
 環境の変化や公害などで、すっかり魚がとれなくなってしまった外国の寂れた漁村におもむけば、たちまち大漁。きっと神のごとく現地の人たちから崇められるであろう。

 だがミヨちゃんの人生設計において、いまのところそんな予定はない。
 なにせ彼女は魚が苦手であるから。
 食べるのはいい。お寿司は大好き。お刺身も大好き。焼き魚だってちょっと骨がめんどうだけど嫌いじゃない。魚卵の味は小学二年生にはムズかしすぎて、よくわかんない。
 生きているのだって、一匹二匹ならば問題ない。
 問題は、それが群れをなして、どっと迫って来ること。
 魚特有のテカテカしたギョロ目が、大量に押し寄せる様は悪夢以外の何ものでもない。
 もしもあなたが家に帰ったら、部屋の壁紙が一面、魚の目玉だらけだったらどう思う?
 それはもう、立派なホラー、猟奇の世界。こんな部屋に一晩閉じ込められたら、まともな神経の持ち主ならば、発狂して、きっと精神がダメになっちゃう。

 そんなミヨちゃん、昨夜は、モフモフの赤ちゃんがたくさん登場するというテレビ番組をとても楽しみにしていたのに、番組内容の一部が急にさし替えられて、イケメンゲストたちが一日水族館でお手伝いとかいう、しょうもない企画になって、テンションだだ下がり。
 ちょろちょろと表向きお手伝い。「いやー、たいへですね」とか「やりがいがありそうですね」とかおざなりなコメント。
 そして最後にドラマの番宣で締めるベタな展開。
 普段はバラエティとかこの手の番組にほとんど顔を見せない俳優や女優が、急に出演しはじめたとおもったら案の定である。
 これでそのドラマがつまらなかったら、しょうちしねえ! とフンスカ鼻息を荒くした幼女。
 だが、そのお手伝いの映像を眺めていて、ふと思った。

「水族館で死んじゃった魚って、どうなるの?」

 いっしょの水槽の中にいる他のサメとかにパクっとされちゃう。
 小さなカニとかもパクっとされちゃいそう。
 でも大きいヤツだとそうもいかない。そういえばマグロがいっぱいダメになった水族館の話もあったけど、どうしちゃったんだろう。
 もしかして……、ごくり。
 下校時にそんなことを言い出したミヨちゃん。
 話を聞いて、しばし考え込んでいたヒニクちゃん。その口がおもむろに開かれる。

「展示用だから、たぶん美味しくない」

 食用は食用にきちんと管理されて育てられているから、美味しく安全。
 天然モノには、天然モノの良さがあるけど、必ずしも美味しいわけじゃない。
 展示用はあくまで見本だし、食品サンプルはもともと食べられないと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。

※水族館でお亡くなりになったモノは、解剖されたり学術的に活かされた後に、焼却処分が一般的だそうです。テレビのグルメ番組とは違い、けっしてスタッフのみなさまで、美味しくいただくことはありません。


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