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259 ファンタジー
しおりを挟むミヨちゃんの知り合いのオッサンが市会議員の補欠選挙に立候補するも、あっさり落選。
下馬評の評判は悪くなくて人物も確か。
会社をいくつも立ち上げており、すべてを成功へと導いており、実績も充分。
中央集権、都会に集中する人々、偏る税収入……。
地方が抱える諸問題を解決し、人口流出を止めて、地元を活性化させるという妙案をいくつも考えており、これらを公約に掲げて、万全の準備を整えての選挙であったというのに……。
そんな彼が落ちて、当選したのは、まぁ、なんというか無難な人。
もっともらしい公約、もっともらしい態度、もっともらしい経歴。
耳障りのよい言葉を口にはしているけれども、きっとリップサービス。
自分が中心になって動くほど、覇気があるわけではなくて、政治に熱意があるわけでもなく、市政改革に意欲がある風でもない。
政治家という看板に満足して、粛々と任期をまっとうするタイプ。
つまり、いてもいなくてもどっちでもいいような毒にも薬にもならない人。
なのに負けた。
ビジュアルが女性受けしなかったのか?
そんなことはない。ロマンスグレーの昭和のスターっぽい渋い見た目。好きな人はわりと好きだと思われる。
スキャンダルがあったのか?
奥様ひと筋の愛妻家。女性の影は一切なし。
公約に疑問を抱かれたのか?
既存の施設を再利用した都市開発を中心とした、未来を描いており、実施すれば成功間違いなしと思われるほどのもの。
「だからどうしても、納得いかないんだぁ」と口にしたのはミヨちゃん。
キャラメル色のくせっ毛と笑うとのぞく八重歯がチャームポイントの小学二年生。
ミヨちゃんによると、これまでは大学を誘致して若者を集めようとしたり、病院などの医療設備を充実させたり、駅前開発や高層マンションを建てることで、市政側はなんとかしようとがんばってきた。
ですが子どもは減る一方だし、病院を建てて維持するのにも限度がある。
いくらキレイな駅前にして、高層マンションを建てたって、見栄えが都会っぽくなるだけで、大した経済効果もありゃしない。
張りぼての繁栄にいくら税金をつぎ込んでも、ザルに水を注いでいるのと同じこと。
そこで落選したオッサンが打ち出したのが、近頃、空き部屋が目立ち始めた市内にある百棟の巨大団地や、統廃合にてあまった校舎を活用した大型老人ホームの運営。
そしてビル型共同墓地の開発と葬儀会社やお寺の誘致。
ちなみにビル型共同墓地とは、お墓の立体駐車場みたいなモノ。
お参りどころにて、ピッポッパッと暗証番号を入力すると、自分の家族の骨壺が、奥の整理棚から自動で、ウィーンと運ばれてくるというもの。
市営にて運営、永代供養を行い、年に一回は大法会を開いての、お祭りイベントも開催などなど。
増え続ける老人、後々の不安や諸問題も一挙解決して、しかも経済が活性して新たな雇用も創出する。
人も物も金も、見事にサイクルしそうな妙案。
落選したおっさんが、仲間たちから慰められている酒の席に、おばあちゃんにくっついて紛れ込んでいたミヨちゃん。
当人から話を聞いて、ものすごく感心したそうな。
「わたしはいい考えだと思うんだけどなぁ」
ミヨちゃんがつぶやいたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「リアルよりファンタジーの方が受けがいい」
誰だって耳の痛い、しょっぱい現実のことなんかよりも、
愛と夢と希望に溢れたファンタジーの方が楽しいに決まっている。
当選するコツは、いかに有権者にいい夢を見させられるかだと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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