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262 四鳥
しおりを挟む大きな自動ドアから一歩、なかへと入ると来客を出迎えたのは、とっても上質ないい香り。並んだ加湿器から吹き出す湯気に混じったアロマ。
正面の棚にずらりと並ぶ、いろんな形の加湿器や空気清浄器。
水といっしょにアロマオイルを数滴たらして、身だけでなく心にも潤いをもたらす品が売れ筋と教えてくれたのは、スーツ姿もダンディな初老の人物。
ここは郊外にある彼のお店。
大型の店舗にて、一階がかわいい小物雑貨や食器類。二階にはソファーやテーブルに各種棚などが数百点もずらりと展示されており、三階はアンティークなんかが扱われている。
今日はやっこ姉さんに連れられて、このお店を訪れていたミヨちゃんとヒニクちゃん。
圧倒的品揃えに二人の幼女もあんぐり。
ミヨちゃんのおばあちゃんとは女学校時代からの知己であるやっこ姉さん。
独り身ゆえに、後々のことを考えて、こつこつ終活中。
派手な柄ゆえに、もう着ることのない着物とか帯とかを、見る眼の確かな業者に任せたり、知り合いにばらまいていたら、気がつけば半分ほどの量に。
となると、和ダンスの中もすっかりがらんどう。
そこで一回りほど小さいタンスと入れ替えようと考えた。
やっこ姉さんの家の家具は、どれも年季のはいったいい品ばかり。うっかり処分したらもったいない。そこでその道の造詣が深いこの店のオーナーに声をかけたら、気前のいいオーナーさんは、「だったらそれをうちで引き取るかわりに、どれでも気にいったのがあったら代わりにもっていっていいよ」
その代わりの品を探しに、やってきたという次第。
ミヨちゃんとヒニクちゃんを連れてきたのは、二人がせがんだから。
あいにく近所には家具屋さんがなくって、たくさんの家具を一度に見れる機会ってあまりなかったので。
しばらく一階を仲良くぶらついた三人。
トイレの位置とかを幼女たちに教えたところで、やっこ姉さん。
「あたしは、ちょっと三階をのぞいてくるから、あんたらは好きにしな。つかれたら二階に行くといい。そこに休憩所があるし、飲み物も用意されてあるから」
「かってに飲んでいいの?」とミヨちゃん。
「ああ、ここのはタダなんだよ。オーナーの心意気ってやつさ」
「おー、ふとっぱらー」
「じゃあ、またあとで」
エスカレーターでのぼっていく和装を見送ったミヨちゃんとヒニクちゃん。
二人はさっそく探検を開始。
キッチン棚のエリアにて、食器棚のずらずらと並ぶ様がまるで迷路のよう。そこを抜けたら、いろんな形のテーブルやイスたちがお目見え。
カラフルなモノから、どっちりとした一枚板の品、ひと口にテーブルといっても大きさも高さも材質も、いろんな種類がいっぱい。
イスの形も背もたれが尖ったものに、格子状になったもの、クッション性のあるものもあれば、座るところがカッチカチのタイルみたいなものまで。
しかもカラーバリエーションが何種類も用意されているらしく、見本のカタログにて色の組み合わせを考えるだけでも日がくれそう。
続いてソファーエリアに突入した幼女たち。
ポフンポフンの跳ね具合を愉しむヒニクちゃんのかたわらにて、一人がけの本革製の黒いソファーに腰をおろし、ふんぞりかえるミヨちゃん。
「これはヤバいね。世の中すべてが手にはいったみたいな気分になるよ」
いろいろ座り比べて、マイベストを決めようとミヨちゃんが言い出し、二人してお気に入りの逸品を探す。
その結果、ミヨちゃんが選んだのは、オレンジ色のかわいいソファーベッド。
チカラの弱いお年寄りでも、軽く引くだけでベッドに早変わりする。
選んだ理由は、「これならワンルームでも、夢のソファー生活がおくれるから」
対してヒニクちゃんが選んだのは、でっかいぼた餅みたいな物体。
中にたっぷりとビーズが詰まったクッションのお化けみたいなやつで、座る人の姿勢や体型にあわせて、形をかえられるというモノ。
人をダメにする悪魔の発明品と、一時期、騒がれたこともあるんだとか。
ミヨちゃんから選出理由をたずねられたヒニクちゃんは、ポツリとこう言った。
「一石四鳥」
場所をとらない。移動が楽。体にベストフィット。
そしてなにより、ストレス発散のサンドバックにちょうどいい。
ソファーベッドは布団との絡みにて、結局ベッドとして使うと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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