ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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325 爆走兄妹

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 商店街のオモチャ屋主催によるミニ四駆大会。
 勝ったからとて、地区大会や全国への切符が手に入るわけではない。表彰状と副賞の新型モデルが貰えるだけ。
 それでも地元の愛好家が詰めかけては、そこそこにぎわっている。
 これに飛び入りで参加したのはミヨちゃん。
 ヒニクちゃんといっしょになって、自宅の物置を漁っていたミヨちゃん。
 なにかヒマつぶしに遊べる品はないものかとガザゴソ。
 で、出てきたのが昔に兄たちが夢中になっていたミニ四駆。
 理系脳な長兄が造った機体は、どこまでも理詰めにて速さと安定感を目指したもの。
 感覚派の次兄が造った機体は、見た目と速さを想いのままに突き詰めたもの。
 せっかくだから走らせてみようと考えた幼女たち。
 だがあいにくとモーターがすっかりくたびれていた。電池も切れている。
 買い替えればいいのだが、ちょっと走らせるだけのための出費は少々イタイ。
 と、ここでグッドアイデアを思いついたミヨちゃん。

「そうだ! 男の子たちに借りよう。ついでにパーツ交換もやってもらえば一石二鳥だ」

 今と昔のマシンのちがいを見てみたくない? とか、たぶらかせばバッチリだよ。とミヨちゃん。なかなかの悪女っぷり。
 そんなわけでさっそく、コースが設置されてある商店街のオモチャ屋に向かった二人。
 行ってみたら店先が大層なにぎわいにつきおどろく。
 大人の男の人も大勢いる。
 何事かとのぞいてみれば、毎月開催されている大会を前にしてのことであった。

「あっちゃー、大会前だから、ちょっとピリピリしているね。これはさすがにムリかも」

 古くさいミニ四駆を片手にキョロキョロしていた幼女たち。
 これが大人の愛好家たちの目にとまる。その手にあるマシンは懐かしく、かつて青春を捧げたモノ。
 だからつい「どうしたんだい? お嬢ちゃんたち」と声をかけた。
 するとモジモジ、上目遣いにて事情を話すミヨちゃん。
 百戦錬磨のお年寄りたちの牙城を攻略してきた幼女にとって、壮年の男性なんて赤子の手を捻るよりも簡単であった。
 その場にいた数人をあっさり篭絡。
 まんまとモーターと電池をセットで借り受けてしまう。

「もうこれ使わない奴だからあげるよ」と言われて、あえて受け取らず、あくまで借りるだけという奥ゆかしさが、さらなる支持率の向上と、彼等の義侠心をおおいに刺激し、大会前にもかからずついでにマシンの調整まで、させてしまったミヨちゃん。
 その手腕にずっと隣にいたヒニクちゃんは脱帽である。
 こちらはこちらで一部のマニアに人気があり、あれこれと世話を焼かれていたのだが、当人はあくまでミヨちゃんのおこぼれだとの認識。

 そんなこんなでちゃんと走るようになったお古のミニ四駆。

「へい、せっかくだし、このまま参加しちゃいなよ」とのオモチャ屋さんのご亭主のイキなはからいにより、大会にまでお邪魔することになった幼女たち。
 で、小学校低学年の部に参加したら、まさかのぶっちぎりにて、ワンツーフィニッシュを決めたもんだから、みんなが驚いた!

「おいおい、マジかよ。そういえば昔に兄弟で一位と二位を独占しまくっていたヤツがいたよな。そういえばあの時のマシンに似ているような……」

 観客のうちの一人の青年がぼつりとつぶやき、それが波紋となってざわつく場内。
 そして発覚するヤマダ家兄弟の伝説。
 どうやらミヨちゃんの二人の兄たちは、かつて地元でかなりブイブイ云わせていたらしい。
 兄たちの過去に触れたミヨちゃん。
 それはともかくとして借り物のマシンで、整備も丸投げで優勝とは、さすがに気がひける。だから辞退しようとしたのだけれども、勝ちは勝ちだといって主催者が譲らない。
 また、過去の伝説に敗れたことで男たちのミニ四駆魂に火がついてしまったらしく、「是非ともマシンを見せてくれ」と殺到されて幼女たち辟易。
 そこでマシンは店に貸し出すことにして、優勝と準優勝の景品として受け取った新型モデルと整備用具一式は、見物客の中にいた一番小さな男の子にプレゼントすることにした。

「少年よ。これで一番を目指せ」

 まるでスポ根マンガみたいな台詞をミヨちゃんに告げられ、頭をなでられた男の子。
 彼の瞳にそのときの幼女の姿が、どのように映ったのかはわからない。
 だがこのことが彼の人生の転機となる。
 なにせこれを期に本格的にこの世界へと足を踏み入れた彼が、やがて大人となってからプロモデラ―として世界を渡り歩くことになろうとは、この場に居合わせた誰一人、知る由もなかったのだから。
 そんなことがあった帰り道。
 ヒニクちゃんがおもむろにボソリ。

「カスタムこそが遊びの醍醐味」

 ずっと長く愛される遊びって、弄れる要素があるからこそ。
 自分なりの創意工夫が、発想する喜びが子どもたちを夢中にさせる。
 でもそこにつけこむ大人たちって、ちょっと汚いと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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