ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

354 化石

　
　校庭の隅にてブラブラしていた男の子。
　たまたま目についた石を蹴飛ばしてみたら、ぱかりと割れた。
　拾って断面を見てみれば、そこには何やらふしぎな模様が。
　男の子は、これを持って近くにいた先生になんじゃらほいと訊ねたら、先生すかさずこう言った。

「これは昔の貝の化石だね」

　どうやら校庭を埋め立てる際に、どこぞより運ばれてきた大量の土砂に紛れていたよう。
　案外、この手のパターンにて発見されることが多いんだとか。ときにはトンデモないお宝発見なんてことも過去にはあったんだとか。
　学校の敷地内にて海の化石が発見される！
　その報は、すぐに全校中を駆け巡る。
　そして始まる化石探しの発掘ブーム。
　主に男の子たちが夢中になって探し始める。すると発見の報告が二度三度と続いたものだから、ブームはますますヒートアップ。
　見つければみんなからは羨望の眼差しと称賛を受けて、一躍時の人。
　たちまちスターの仲間入り。
　頭の良し悪しは関係ない。運動の良し悪しも関係ない。家の裕福さも関係ない。
　必要なのは運と根気。
　そしてそうやって見つけ出し物は、きっと素敵な宝物となり、幼少期の想い出を彩ることになるであろう。

　ザクザクザクザク……。
　休憩時間になるたびに、小学校内のあちらこちらから、このような音が聞こえてくる。
　ザクザクザク、ちっ、ザクザクザク……。
　たまに舌打ちが聞えてくるのが、いささか不快だが、なにせ発掘作業は忍耐力がいるので、イラ立ちが募って子どもながらに、ついついお下品な真似も出ちゃうもの。
　しかし熱中する男子たちとは対照的に、女子の大半はこのブームに対して、静観の構えをとっている。
　化石は大古のロマンと言うけれど、苦労して見つけた品の価値を知ったら、彼女たちはとても腰を酷使してまで探したいとはおもえなかった。
　ぶちゃっけ専門店に行けば、子供の小遣いでも、もう少し立派な品が手に入るとわかってからは、なおさら冷ややかものに。
　だからとてみんなが夢中になっていることに、外野から冷や水を浴びせるような野暮はしない。
　この辺が、まぁ、男子と女子との精神年齢の差なのだろう。

　校庭にあるのぼり棒の天辺から、下界にてトレジャーハントに勤しむ男子たちの姿を睥睨していたのはミヨちゃん。
　となりののぼり棒から同じく、下界に氷の眼差しを向けていたのはヒニクちゃん。

「化石ってさぁ、ぶっちゃけ死体だよね？　それを部屋の棚に飾るとか、よくよく考えたら、けっこうリョウキ的？」

　猟奇とか難しい言葉を使ってみせたミヨちゃん。
　彼女は少女マンガを溺愛している。そして少女マンガといえばホラーはかかせないジャンル。年々、描写は緻密を極め、演出は進化しており、物語の深みも増している。
　単純に怖い話という枠に収まりきらない。
　それが少女マンガ界のホラー。
　そんなモノに常日頃から触れている幼女としては、昨今の校内の化石ブームに対して、ついつい斜に構えてみたいお年頃みたい。
　これを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「きれいな化石になれる確率は十億分の一以下」

　石に閉じ込めれて後世に姿を残せるのは、まさに奇跡。
　いろんな条件をクリアした選ばれし者。なお遠い未来に発掘される
　化石にて、人よりもスマホのほうがグンと確率が高いらしい。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。