ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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367 王道

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 ミヨちゃんの家には、とっても元気なおばあちゃんがいる。
 祖父が亡くなってからは、積極的に外へと出て、いろんなサークル活動に精を出している。
 孫娘と祖母の仲は良好にて、いっしょにテレビをよく眺めている。
 そのせいか、時代劇にも造詣が深くなった小学二年生。
 カメラアングルを観れば、俳優の殺陣の良し悪しがわかる。全身を常に映されている人はウマい。小手先の動きではなくて、体全体にて武芸を表現できている。
 着物を着こんでの動きは帯や得物を下げたりするので、腰が中心となる。不慣れな若手だと、どうしても肩からゆすってしまい、動きに違和感がでる。
 洋装のドレスを着て日本舞踊を踊るようなもの。
 こればっかりは一長一短には身につかない。
 みっちり、じっくり、時間と経験を積んでいくしかない。
 だから、近頃の若手のイケメン俳優はいまいち、女優さんも着物を着こなせておらず、たんに羽織っているだけで、うーん、というのがミヨちゃんの感想。
 かつては連日、テレビの画面をにぎわしていた時代劇も、姿を隠して久しい。
 理由は演じるに難しく、お金も時間もたっぷりかかるわりには、儲けがいまいち。
 かくして世の流れに押されるかのようにして、ちゃらちゃらした阿呆な恋愛ドラマらに業界から押し出されて、消えていくことになるのだが、自国での活動が低迷するのに反比例して、国外での評価が高まるというズレが生じるという皮肉な結果を迎える。
 つまり先見の明がなかったのだ。
 制作会社やテレビ局、配給元などが気づいたときには、すでにノウハウを蓄積した面々らは軒並み引退しており、新たに作品が産み出しずらい状況に。
 それでも最新技術とかを駆使して、それっぽい作品は作るも、それらはやっぱり何かが違う。
 デジタルゆえにいくらでも弄れる。編集も加工も取り直しも容易であるがゆえに、なんだか一幕一幕が軽く感じられる。
 迫力ある決闘シーンのハズなのに、心に響かない。
 むしろ昔ながらの静止画でのコマ送りとか、スローモーションとか、苦肉の策にて編み出された演出の方が、雰囲気がいい。
 きっと上辺だけをなぞってもダメなのだろう。
 技術や資金、期日、その他もろもろが限られて、カツカツの中にて追い詰められて産み落とされたモノが強い。
 新旧の作品を見比べると、それが手に取るようにわかると、渋い意見をのべるミヨちゃん。
 下校中での出来事である。
 いつものように仲良しのヒニクちゃんといっしょに帰っているときのこと。

「で、ここのところ夕方に一挙、再放送しているあの超有名な作品についてなんだけど」

 ミヨちゃんが口にした作品。それは隠居爺が供らといっしょに印籠片手に各地を放浪して、己の経歴を武器に悪党どもを懲らしめるという、王道中の王道作品。
 とはいえ長いシリーズを重ねるうちには、王道にもいろいろあった。何もごとにもはじめはある。いきなり王道は王道足り得たわけではない。
 途中には迷走もあった。やたらとアクションシーンが派手になったり、イケメン俳優を器用したり、忍術バンバンの忍び風になったり、微妙なお色気シーンを導入したり、ちょろちょろと目障りな子役を仲間に加えたり……。
 いささか話が横道にそれた。
 ようは、ミヨちゃんが言いたかったことは「印籠ってあるよね? これをとり出すと、みんなが『ははーっ』ってなるのがお約束なんだけど、あれって実はめずらしいの。他にも身分を隠している主人公の時代劇はいろいろあるんだけど、だいたい『ええい、こうなれば』って悪党どもが開き直って逆襲に転じて、主人公にバッサリなんだ」

 どちらも最後には一件落着なのだが、果たして真なる王道はどちら?
 という、極めてデリケートな問題をミヨちゃんが持ち出す。
 これを受けて、しばし思案顔をしていたヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。

「作品の良し悪しは別にして、印籠はアウトだと思う」

 元総理が職を辞しても、そのまま議員として政党に残ってのアレコレ。
 あれって本音のところでは、どうなんだろう? やっぱり邪魔なの?
 それともそれなりに役に立ってるの? 会社で考えたら、ちょっとねえ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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