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390 ピラミッド
しおりを挟む近頃、小学校ではある問題が持ち上がっている。
それはピラミッドについて。
とはいえ別に校庭からナゾの古代遺跡が出土したとか、校舎の裏山がじつは……といった話ではない。
問題になっているのは運動会にて行われる、組体操のピラミッドのこと。
実施するかどうかでモメにモメているのだ。
事故なんかと隣り合わせなので、全面的に中止! とお上が言ってくれれば楽なのに、こともあろうに「現場判断に任せる」と丸投げしちゃったものだから、さぁ、たいへん。
学校ごとに議論が巻き起こることに。
ひと口に組体操のピラミッドといっても、段数やら規模やらいろいろ。
代々、気合を入れた勇壮なるピラミッドをこしらえてきた学校にとっては伝統行事につき、「よし、危ないからヤメちゃおう」とは簡単にはいかない。
賛成、反対、双方の意見が入り混じって、どちらからも激しい突き上げを喰らう。
それ以外のふつうの小学校でもやはりモメる。
なぜなら親御さんたちの生まれや育ちもあちらこちらに散らばっているから。
ところ変われば習慣や文化も変わる。
組体操にまつわる思い出や記憶もじつに様々。
身近で骨を折った子がいたりした人は、反対に回りやすいし、逆にみんなで頑張って得た達成感がよかったと考えている人は、賛成に回る。
総じて、無茶な段数のピラミッドには反対するものの、廃止するとなるとちょっとといった意見が存外多い。
大人だけでなく当の子どもたちの意見もきこう。
などという良識ぶったことを口にしだす者もまた混乱に拍車をかける。
むしろ訳知り顔にてこういった意見を吐く輩が一番性質が悪い。
なぜなら小学校の高学年といえば、体も心もイケイケどんどんな時期。
なんだってやってやるぜ! おれたち無敵! な頃。
大人が危ないからどうする? とたずねれば、「おれたち、そんなにチキンじゃねえぜ」と反骨精神をやたらと無駄に発揮する。
かといって大人に強制されたら、「おれたちに命令するな!」とやはり反発する。
とどのつまり、大人たちだけでもちっとも話がまとまらないのに、そこに子どもまで混ぜたら収集がますます遠のくと。
そうして待ち構えているのはカオス。
そのうち焦れた大人たちが、より責任ある上の者の意見を求めだすと、ついには教育委員会だの市政だの、はてはさらに上にまで話が波及して、もっとヒドイ状況に。
これにマスコミあたりがパクリと喰いつくと、たちまち全国規模での大論争。
あちこちで小競り合いが勃発。
ついには社会問題化。
そしてメディアではコメンテーターが「あんなもの悪習にて、過去の遺物。わたしはアレから学んだことなんて何一つない」とか「とくに記憶にないですねえ。しょせんはその程度のものでしょう」「いまどきマスゲームとか、独裁国家ぐらいしかやってませんよ」と言い出す。
あくまで個人的見解との小さなテロップにてお茶を濁す番組サイド。
でもこれを見た視聴者らの中には「それもそうかも」とか流される者が出始める。
かとおもえば「コメンテーターって勉強しかしてないインテリじゃん」「運動が苦手だった奴の意見ばかり聞かされても」といった反対意見も沸々。
いっそのこと国の中枢がきっぱりと明言してくれればいいのに、誰もそれはしようとしない。
なぜなら責任を負うことになるから。
物事や習慣の良し悪しなんて時代でコロコロ変わるもの。
後々になってヘンテコなブーメランになって跳ね返ってくるともかぎらない。
だから言わない。言質をとらせない、与えない。
で、そのままズルズルとモメ続けて、一年が過ぎて、またぞろ問題が再燃すると。
「今年はどうするのかなぁ。去年は四段で手をうったよね」
下校途中にこのピラミッド問題に触れたのはミヨちゃん。
いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの帰り道のことである。
小学二年生らにとっては、あまり関係のないことながらも、やるともなればやはり花形。テッペンに立てば間違いなく卒業アルバムにて、デデンとおおきく掲載されることになり、やはり気になるもの。
どうなる? どうする? 大人たち。とミヨちゃんの好奇心を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「やるならいっそ自由参加でいいと思う」
全員参加を強制するからややこしいことになる。
国歌斉唱、国旗掲揚ですらもモメるといういのに、
これ以上、しょうもない問題をわたしたちの中に持ち込まないで。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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