ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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398 プチシュー

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 ふんわりした感触なのに、手に持てばどっしりとした重み。
 ひと口頬張れば、あふれ出てくるのは甘いクリーム。
 みんな大好きシュークリーム。
 エクレア派も世には多いと聞くが、やはりまずはシュークリームだろう。
 和製英語だなんぞという、小難しい理屈はどうでもいい。
 昨今ではそのバリエーションや進化が留まることを知らずに、どこまでも広がりをみせている。
 サクサク、ザクザクな食感の焼き生地が特徴的なモノから、新鮮なミルクからつくられた濃厚なクリームが評判のモノ。かといえばあえて奇をてらうことなく見かけはシンプル、だけれども中味が「こんなのはじめて!」といった意外な組み合わせだったり、味のクリームだったりと。
 激化する競争に呼応するかのようにしては、次々の世に産み落とされるシュークリームたち。おかげで洋菓子店だけでなくスーパーからコンビニまで、どこでも買える時代となった。
 いったいこの世にどれほどの種類のシュークリームが存在しているのか、神のみぞ知る域へと到達しているといっても過言ではあるまい。

 ここにもまたシュークリームを愛する幼女がいる。
 ミヨちゃんである。
 ミヨちゃんは遠い目をして語る。「シュークリームとは、ロマンだよ」と。あと「風呂上りのアイスシュー最高」とも。
 甘くておいしいシュークリーム。
 子どもから大人まで、みんな大好きシュークリーム。
 あれはみんなに幸福を運んでくる食べ物。
 しかもすっかり歯がダメになってしまったお年寄りでも安心にて、喉につまらせる心配もいらない。

「これはもう、ある種の未来型食べ物なんじゃないのかなぁ」

 とすら幼女は考えている。
 このようにシュークリーム愛がとどまることをしらないミヨちゃんだが、その愛ゆえにどうしても言いたいことがあるのと、いささか鼻息が荒い。
 いつものごとくヒニクちゃんと仲良く下校しているときのことだ。
 だからいつものごとくヒニクちゃんは友の真剣な言葉を、ドーンと受け止める覚悟にてコクリとうなづく。
 友の頼もしい態度に、コホンとせき払いにて会話をいちど仕切り直したミヨちゃん。
 そして幼女はこう主張した。

「プチシューってあるじゃない。ほら、スーパーとかでパック詰めでニ十個ぐらい入って売られてる安いの。あれって、もうちょっとがんばれないのかなぁ? 仮にもシュークリームの看板をしょってる以上は、あれだとダメだとおもうの」

 見た目は小さなシュークリーム。
 けれども口の中に放り込んだら、くしゃりと潰れて、しみったれたクリームと混ざり合いぐじゅぐじゅ、モサモサとした食感。
 カプッ、中味がドバッっというシュークリームの醍醐味が微塵も味わえない品。
 値段が値段なので、それもしようがない。
 でも、もう少し値上げしてもいいから、中味を盛って! というのがミヨちゃんのご意見。

「気軽にひと口ってコンセプトはいいとおもうの。でもあの少ないクリームはなんなの? あれだと皮だけを食べてるのとかわんないよ。べつに二層式にしろだなんて贅沢はいわないよ。もうちょっと、あとほんのもうちょっと増やしてくれるだけで、あの子はぜったいに別次元の高みへと到達できるはずなんだよ。まだまだがんばれるはずなんだよ」

 嘆きにも似たミヨちゃんのメーカーさんへの切実なお願い。
 ダメだと言いながらも諦めきれない心やさしき友の言葉をまえにして、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「シュークリーム、本名シュー・ア・ラ・クレーム」

 起源は五百年以上もまえのメディチ家だとか。金持ちすげえな。
 でも広く普及したのは近年になって冷蔵技術が安定してから。
 だからシュークリームがいっぱいの国はしあわせの国ということ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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