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402 まくら
しおりを挟む世の中には加齢臭なるものがあるらしい。
若い娘さんなんかはオッサンの代名詞みたいに扱って、クサイとバカにしているそうだが、その実、男女ともに発生する。
つまりいずれは我が身に跳ね返ってくるということ。
調子にのってた分だけ、のちのちに受けるダメージが倍々返しに!
まぁ、それはとりあえずどうでもいい。
問題はそれがけっして他人事ではないということ。
「でも、わたし、べつにお父さんの枕のニオイとかイヤじゃないんだけどなぁ」
そう言ったのはミヨちゃん。
この発言を聞いたら、きっと彼女のお父さんは小躍りして、ケーキを大量にお土産に買って帰ることであろう。また全国のお父さん方も、「うちもこんな娘が欲しかった」と滂沱の涙を流すにちがいあるまい。
だが、そんなミヨちゃんの発言に対して否を唱えたのはチエミちゃん。
「えーっ、うちのお父さんのなんてロウソクの燃えカスみたいなニオイがして、わたしはダメ」
うって変わって全国のお父さん方が、グサリと胸に一撃を喰らって悶絶しそうな厳しいお言葉。
これにはおもわず、クスクスと笑ってしまうアイちゃん。
彼女のところは一家そろっておしゃれなファッション関係に従事している。それゆえにこの手の話題には敏感ながらも、縁がないかとおもいきや……。
「うーん、こればっかりは体や健康の問題だからねえ。いっぱい汗をかいてれば、老廃物がじゃんじゃん排出されるから、汗もさらさらでにおわなくなるんだけど」
なかなか働くパパさんたちは忙しくって、そうそうジム通いなんてできやしない。一日、朝から晩まで頑張った後に、さらに走り込みとか、それはもうただの苦行にほかならない。
かといってたまの休みに家族をほっぽり出して、一人ランニングとかもちょっと寂しいものがある。
その辺のことに触れるのみにとどめたアイちゃん。あえて自分のお父さんについては言及しなかった。そんな態度に、みんなは彼女の思いやりを感じて、それ以上はあえて追及しないでおくことにする。
「汗かぁ……、うちのお父さんはサウナが好きで、よく仕事帰りに寄って来るよ。でもわりとにおうかなぁ。べつにイヤとかじゃないけど、男性特有っていうのかな。弟なんかはお母さんのタオルケットとかにはよろこんで潜り込むけど、お父さんのはわりと本気で逃げてるし」
そんな話を披露したのはリョウコちゃん。
まぁ、小さい子はお母さんのニオイ、大スキだからね。
対してお父さんのニオイってどんなの? ってたずねたら「タバコのにおい」とか「お酒のにおい」とか「ゴロゴロしてるニオイ」とかよくわからないことばかり頭に浮かぶのが大半。
ちなみにリョウコちゃんのお父さんが汗をバンバンかいているのに、なんか枕からヘンなニオイがするのは、サウナ上がりにビールを一杯ひっかけてくるから。せっかく通りがよくなった汗腺にかわりにアルコールを流すがゆえの現象である。
「お酒もあったか……、だったらヨーコ先生はどうなんだろう」
ミヨちゃんの何気ない発言を受けて、みんなの視線が自然と黒板に向かって次の授業の準備をしていた先生の背中に。
その瞬間、先生の肩がびくり。
どうやら生徒たちの話が耳に届いていたようだ。
幼女たちの加齢臭話に内心、おかしくってしようがなかった女教師。しかしその矛先がまさか自分に向かってこようとは予想だにしなかった。
とたんにピンチとなったヨーコ先生。
これを前にしてヒニクちゃんが助け船をだす。
「嫁入り前の女の枕はニオイなんてしない」
かわいい着ぐるみの中に、中の人なんていない。
カッコいい変身ヒーローの中に、中の人なんていない。
世の中には触れてはならぬ禁忌が存在するもの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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