ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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422 ボトルメール

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 ビンに手紙を入れて、海にえいっ! と投げる。
 うまく波にのって潮流へとたどり着けば、あとはどんぶらこっこと海の彼方へ。
 すると浜辺を散歩していた異国の人が、「あら? これは」と拾ってフタを開けて、中身を読了。
 そこから始まるかもしれない、うれしはずかし文通。
 もしかしたら国や人種を超えたラブロマンスなんかも発生しちゃったりするかもしれない。
 が、それも昔の話。
 近頃では海洋ゴミが世界共通の問題となって、対策が声高に叫ばれているので、うっかりポイ捨てしようものならば、下手をするとお叱りの手紙が届くなんてこともあるかも。
 そんなボトルメールが、何故だか公園の池のほとりで発見される。
 見つけたのはミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
 良く晴れた休日の午後。
 遊びに来ていたところ、ぷかぷか岸辺で浮かんでいるところを発見。
 ペットボトルだったので、てっきりどこぞのマナーの悪い人が捨てたゴミかと思って拾ったら、中にはお手紙らしきものが……。

「これがウワサのボトルメールというものか。むかーしの少女マンガに登場していたのを読んだことがあったの。とっても貧しいヒロインが願いを託して流したボトルメールが、偶然にも超お金持ちのハンサムな青年に拾われて、そこから始まる怒涛のサクセスストーリー。でもどうしてこんなところで?」

 ミヨちゃんは首をかしげずにはいられない。
 何故なら公園内の池は外部の川や水路とは完全に独立して存在していたから。
 だからどこぞより流れ着いたという説はありえない。
 完全に閉じられた世界。
 そんな場所でボトルメールを流す意味がはたしてあるのだろうか?
 幼女ふたりは送り主不明の得体のしれない手紙よりも、むしろそちらのナゾに喰いついた。

「ボトルメールっていえば、外国に届くとしても、言葉がちがうと読んでもらえないよねえ。英語が一番、通じる可能性が高いけどそれだって必ずとはいえないし。そもそも女子どもの肩で投げたボトルが沖の波まで届くのかな」

 トップクラスのプロ野球選手の外野手の肩ですらも、遠投ならば百三十メートル前後。
 物心つく頃より野球三昧、年がら年中、己の肉体を痛めつけて鍛錬をかさねた男がようやくたどり着ける境地。
 素人の小娘レベルであれば、それこそ五十メートルも怪しいのではなかろうか。
 ましてや投げるのはボールではなくて、ガラスのビンとかペットボトル。
 ガラスのビンだとけっこう重いから飛びそうだけれども、それを扱えるだけの腕力が必須。
 ペットボトルだと軽いけど、その分、あまり飛ばなさそう。
 ミヨちゃんの二番目の兄であるタカ兄ちゃんは、高校の体力測定の遠投にて百メートルを投げたとか言って自慢していたから、あのワンパク盛りですらもが、せいぜい八十から九十も投げればたいしたものだと思われる。
 これらのことを踏まえて、ミヨちゃんはかなしい結論を下す。

「もしもそれが可能だったのならば、ヒロインは自力できっと這い上がるよ。スポーツ特待生として」

 やや話が横道にそれた。
 コホンと、咳払いののちにミヨちゃんが言った。

「ふつうに考えれば、誰かがここに捨てたと考えるのが妥当か……。やはり中身を見るしかないのか。でももしもステキ男子からのお誘いだったらどうしよう」

 なんだかんだで夢想を膨らまし、ワクワクとフタに手をかけるミヨちゃん。
 が、開かない。うーんとうなり気合を入れてもやっぱり開かない。

「かったー、なにこれ? うぅ、手がひりひりするよぉ」

 ギブアップしたミヨちゃんにかわりヒニクちゃんもチャレンジ。
 彼女は家で飼っているペットのゾウガメの世話をしているせいか、お人形さんのように華奢な見た目に反して、けっこうチカラが強い。
 でも、やっぱりフタはビクともしなかった。
 どうやら隙間に水が染みて、へんな摩擦やら強度が働いてしまっている模様。
 これは子どもの手におえないと判断した幼女たちは、キョロキョロと周囲を見渡す。
 すると向こうから歩いて来るやっこ姉さんを発見!
 早速、駆けていきお願いするも、開かない。まぁ、元芸者で粋な姉さんではあるけれどもけっこうな高齢にて、この手の作業には向いていなかった。
 けれども年の功とでもいおうか、チカラがダメなら頭を使えとばかりに、取り出したるは愛用の舶来製のライター。

「よい子は真似しちゃダメだよ」と言いつつ、ボウボウと火あぶりにてパカンとペットボトルを輪切りに真っ二つ。
 で、三人そろって手紙をのぞいてみれば、そこには「この手紙を読んだ方は三日以内にほにゃらら」という内容が。

「チェーンメールは法律に抵触することがあります」とヒニクちゃん。

 その歴史はむちゃくちゃ古く、時代とともに進化発展。
 現在でも電子世界を舞台にして、絶賛活動中。
 どれだけ文明が進んでも、人間のやることはあまりかわらない。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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