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426 四つ葉の大罪
しおりを挟む四つ葉のクローバー。
通常は三しかない葉っぱが四つ。
その希少性ゆえに古来から、幸運をもたらすと伝わっている。
子どもたちの間で、定期的に流行するものの中に、幸運グッズや迷信などがある。
消しゴムに好きな人の名前を書いて、誰にも見つからずに最後まで使いきると想いが相手に伝わるとか。
黒猫や霊柩車を見かけると縁起が悪いとか。
学校の敷地内にあるどこそこの木の下にお願いごとを書いた手紙を埋めてお祈りしたら、願いが叶うとか。
どこそこの宅配便のトラックを日に三度見かけたら、ラッキーだとか。
この手の話題はまるで泡沫のように、現れては消えて、忘れた頃にまた現れる。そして世代を超えて少しずつ姿をかえながら継承されていくから、ふしぎ。
まぁ、それだけ老いも若きも悩みが尽きないということなのだろう。
いくら子どもだからとて、無邪気に信じているわけじゃない。
先ほども述べたがこれは流行なのだ。
みんなで盛り上がっているところで一人だけツンと澄まして「くだらない」なんていう態度をとるのは野暮天のすること。
ざんねんながら小学二年生では、まだ「波にのれない」ことと「波にのらない」こととの判別はちとムズカシイ。
結果として、「ノリのわるいしょうもないヤツ」との烙印を押されてしまう。
だから同じ阿呆ならば全力で踊るのが、局所的流行への正しい対処の仕方。
そんなわけでミヨちゃんとヒニクちゃんは川原の土手へとやってきた。
目的は四つ葉のクローバーの捜索。
四つ葉のクローバーはなんといっても幸運アイテムのプリンス。
ときに解釈が錯綜することがしばしばある、この業界にあって万人が認めるマストアイテム。
しかも努力と根性と根気次第でタダで手に入るとあっては、こいつを刈らない手はない。
が、すでに学校周辺は刈り尽くされた感がある。
乙女の貪欲さは想像を絶するのだ。みんなが鵜の目鷹の目にて漁るものだから、ほぼ全滅状態。
そこで早々に見切りをつけたミヨちゃんたちは、こちらへと狩場を移動したというわけ。
四つ葉のクローバーといえば、ちょっとおもしろい話がある。
なぜだか「やたらと見つける人」と「さっぱり見つけられない人」がいるらしい。
複数にて捜索を開始すると、おどろくほどに明確な差がでる。
同じ時間にて片方が数十も見つけるのに対して、もう片方が数本にも届かないとか。
この差については諸説あるものの、どうやら認知の仕方に原因があるらしい。
見つける人は三つ葉は三角形、四つ葉は四角形のように判別しているらしく、ワラワラと密集している中から形状が異なるモノを無意識のうちに探しているんだとか。
見つけられない人は、あくまで葉の枚数に注目して探すので、いちいち数えるから捜索がちっともはかどらない。しかもより集中することになるので視野も狭くなり、心にも余裕がなくなる。その結果なかなか見つからない。ますます意地になる。で熱心になればなるほどの負のスパイラルにはまると。
で、幼女二人はどうであったのかというと……。
「見つけたー! これで十個目」とミヨちゃん。
「……」終始無言のヒニクちゃん。一日平均百文字前後で生活しているヒニクちゃんなので、これは普段通り。でもいつにもまして無口なのはその手に一つも獲物が握られてはいないから。
ミヨちゃんからは「あとで分けてあげる」と言われているけれども、こうなると一つぐらいは自分の手で見つけたい。そして出来ればそれをミヨちゃんと交換とかできたらヒニクちゃんはうれしい。
なのに何故だかちっとも見つからない。
ムキになりイラ立つことで、ますます遠ざかる幸運。
ついに腰が悲鳴をあげる一歩手前まできたところで、立ち上がったヒニクちゃん。
うーんと伸びをしてカラダを労わりつつ、ぽつり。
「種を買って育てるか」
半世紀以上も前の園芸学者が開発したせいで、
いまや金さえ積めばいくらでも買える幸運の象徴。
ビニールハウスでびっちり栽培されているとか。
かくして希少性と神聖性は失われた。なんと罪なことを。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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