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460 お好み焼き
しおりを挟む広島のお好み焼き。広島風ではダメ。広島焼きは論外。
大阪のお好み焼き。関西風とも言われるけれども、ダメじゃない。
地域によっては似たような調理方法で名称が異なる。
和歌山のせち焼き。東北地方ではどんどん焼き。東海地方ではしぐれ焼きや遠州焼き……。
こんな感じでいろいろあるし、ぽこぽこ新しいスタイルが生まれ続けている。
基本的には刻んだキャベツに小麦粉と具材を合わせて焼いて、たっぷりソースを塗って食べる調理方法。
地域差が千差万別にて、投入される具材も地域の特色があらわれている。
が、今回は上記の広島と大阪のお話。
商店街にある居酒屋。
豊富なメニューとリーズナブルな価格。店主の確かな料理の腕なんかもあって、昼は定食屋として、夜は大人の社交場として人気のお店。
そこがモメている。
原因はメニューとして提供している二種類のお好み焼き。
メニューには「○○風」と明記。
これに同商店街にて衣料品店を営んでいる店主が異を唱えた。そのご店主は広島出身にて、「どうにも我慢ならねえ」と怒る。
商店街の店主らにて、居酒屋にて飲み会を開いていたときの出来事である。
ずっと昔からウツウツしていたらしいのだが、お酒の勢いも手伝い、日頃の不満がついに爆発。居酒屋さんに「やいやい」と噛みつく。
しょせんは酔っ払いの戯言と、適当に受け流しておけばよかったのだが、このときは居酒屋さんもけっこう酩酊状態にて。
売り言葉に買い言葉、ついには取っ組み合いのケンカへと発展。
騒ぎにて酒瓶二本とコップが一個、あと入り口のガラス戸にヒビが入って、交番からお巡りさんがおっとり刀で駆けつける事態となる。
そして何故だかモメる二人の間に入って、どうにか殴り合いを止めようしていた組合長がお巡りさんに取り押さえられるという、ハプニングまで発生。
組合長、通称「組長」と呼ばれてみんなから慕われている彼は、その中身の面倒見のよい男っぷりとは裏腹に、外身がすこぶる本職寄りにて、夜中にうろうろしていたらかなりの高確率にて職務質問を受けるような人物。
すべては不幸なかんちがいであった。
結果として、二人の酔払いともどもひっ捕まえられた組長は、警察署へと迎えにきた奥さんに手を引かれて夜更けに帰宅することになる。酔っ払いたちは一晩、ご厄介になったとか。
酔って、モメて、寝て起きたらノーサイド。
なんてことにはならずに、起き抜けにぎゃあぎゃあモメる二人。
これには翌朝になって迎えにきた組長も呆れるやら情けないやら。
ついには「そんなにモメるのならば、いっそのこと白黒つけやがれ」と言い放つ。
そんなわけで商店街主催で急遽、行われることになったのは「どちらが真のお好みやきか?」試食会。
店頭に用意された二種類のお好み焼き。
それをつまんでもらい、投票箱に投票してもらおうというイベント。
タダでウマいものが喰えるとあって、開始前から子どもたちが長蛇の列。
これには主催者側も唖然。
よりにもよって一番集まった世代が超若年層。これで果たして正しいジャッジが下されるのであろうかと、不安顔の衣料品と居酒屋の店主二人。さりとて今更、やめるわけにもいかず。
これには立場上主催者の末席に鎮座していた組長も、くつくつと笑いをこらえるのがタイヘン。
「おや、ミヨちゃんたちも来たのかい?」
見知った顔を見つけた組長が声をかける。
「うん、タダでお好み焼きが配られると聞いちゃあ、来ないわけにはいかないよ」とミヨちゃん。
どうやらイベントの趣旨が歪曲して広がっているらしく、投票に関しては完全に二の次と成り果てている。
だから二人の店主は開催前に、並ぶ子らにちゃんと説明しようとした。けれどもムダであった。
目の前にごちそうをぶら下げられた状態で、小難しい話をされたとて馬耳東風。
腹ペコチビッコモンスターたちを相手にするには、店主たちはあまりに非力すぎた。
で、しぶしぶ開催の合図を告げると、用意してあった分はものの十五分で完売。
あげくに投票用紙には「どっちもうまかった」「またやって」「言い方なんてどうでもいいよ」「いいとししたオトナのくせに」とのご意見が拙い文字でつらつらと。
白黒つけるはずが、逆に子どもらから「なんでモメてるの?」「大切なのは味じゃないの?」「アイデンティティのもんだい?」とか言われて、無垢な眼差しを向けられしどろもどろになる店主たち。
これを尻目に、ハフハフとお好み焼きを食べていたヒニクちゃん。青のりを口の周りにつけながら、ぼそり。
「やいやい言うのは、だいたいコンプレックスの裏返し」
ことの真偽や是非はべつとして、社会的認知に差があるのは、
認めざるをえない。正しい現状認識から、これを脱却する方法を
考えないとダメだと思うの。っていうか味の決め手はソース。
つまりどれもこれも最終的にはソース味に終着する気が。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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