ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

485 地域振興

　
　銀行の金利が笑えるほどに少ない時代。
　一定額以上の大金を持つモノは多くの金利を得て、それだけで生きていける収入を得られるというのに、それ以外はまるで恩恵を受けられない。
　物価はじりじり上がりつつ、税金もじりじり上がりつつ、医療保険料とかもじりじり上がりつつ、お給金だけはじりじり上がったり下がったり。
　働けども働けども、暮らしは楽にならず。
　未来の展望が見えず、悲観し、すっかりヤル気を失くす若者たち。
　巷がそんな体たらくにて、景気も低迷。
　政治家たちは、しきりに「景気はいい」と連呼しているけれども、庶民はちっとも実感ができない。
　なんともうつうつした空気は、閉塞感を産み、人々の財布のヒモもギュッとしてゆるむこともない。

　そんなイヤなムードを吹き飛ばすために、市政が行うのが地域振興券の販売。
　四千円にて五千円分の地域振興券が買える。
　すなわち二十五パーセントもお得。
　二万円分を購入すれば、二万五千円分の買い物ができる。
　これはデカい！　
　市内の協賛店でしか使えず、また期限も設けられているけれども、それを差し引いてもとってもお得。
　事前に書類にて申し込んでの購入となり、各家庭にて購入できる分は限られているので、誰かが独り占めして買い占めるとかはムリ。
　広く市民に行き渡り、地域の活性化に繋がればとの地域振興券。

　ミヨちゃんらが住む地域でも発行されることになったので、つい先日、お母さんといっしょに市役所まで書類を提出に行ったミヨちゃん。
　市役所の専用受付にいたおじさんはとっても親切丁寧に対応してくれた。
　それにはすごく感謝したのだけれども、だが幼女は幼女なりにいろいろと思うところがあった。
　だからそれを下校中に仲良しのヒニクちゃんに話すことにした。

「お得なのはわかるんだけど、これを手に入れるためには元手がいるよね？　それって結局、おカネがある人は買って得するけれども、おカネがない人は買えないから丸ぞんじゃないの？」

　よっぽど突出した収入のあるお宅はともかくとして、だいたいみんな税金は同じぐらい納めている。
　なのにお金持ちはいっそう富を得て、貧乏人はひたすら搾取されるばかり。
　子どもだって微々たるものだけれども、お小遣いの中からお菓子やマンガを買ったときには消費税を払っている。しっかりとられている。
　なのに恩恵を受けるのは大人ばかり。
　これって不公平のような気がすると、ミヨちゃんは首をひねっているわけ。

「それにね。これを販売したりするのにも、けっこうな手間ひまおカネがかかっているよね？　書類を作ったり送ったり、いろいろたいへんなはず」

　だからミヨちゃんはこう思わずにはいられない。

「ならいっそのこと、全員に三千円分ぐらいを配ったほうが、よっぽどてっとり早くて、安あがりで、平等じゃないの？」と。

　いろいろそれっぽい理屈を口にし、わりといい事も言っていたのだが、ようは「大人はずるい」との小さき者の主張。
　これを受けて、おもむろにヒニクちゃんは口を開いた。

「地域振興券、別名先喰い」

　税金があがるまえに、駆け込み需要が発生するでしょう？
　でもあがったとたんに、ガクンと消費が落ち込むから、
　トータルではとんとん。もしくはマイナス。
　なお地域振興券の経済効果は不明。景気浮揚策は計画的に。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。