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しおりを挟む音楽室にての、先生のピアノの伴奏に合わせて、合唱中。
ふと目に飛び込んだのは教室の天井付近にずらりと並ぶ肖像画のプリント。
歴代の著名な音楽家たちが、ジロリとこちらを見下ろしている姿は、ちょっと不気味。
何人も並んでいるけれども、子どもたちの中でもっとも知名度があるのは、なんといってももじゃもじゃ頭の眼光鋭いベートーベン。明らかに他の貴族然としたすまし顔の面々とは毛色がちがう。曲にしても「ジャジャジャジャーン!」という迫力ある音。「運命」だなんていうタイトル。耳が聞こえないのに音楽活動を続けていたという逸話。どれをとっても話題性に富んでおり、一度、聞いたら忘れられないキャラクター。
その他にはモーツアルトだのショパンだのバッハだのチャイコフスキーだの、名前は知っているけれども、いまいち顔とか曲とかがピンとこない。
「っていうか、まえから思ってたんだけど、あのモコモコ頭ってヘンだよね。ぜったい余裕でエンピツが刺さるよ」
肖像画の音楽家たち。その髪型を目にして、間奏の合間にミヨちゃんがぼそり。
これを耳にした周囲が「ぶふっ」と吹きだし、なかにはこらえきれずにケラケラ笑い出す子まで出て、合唱が中断。
音楽の先生から「こら! マジメにやりなさい」と揃って怒られた。
そんな音楽の授業もすんで、自分たちの教室へと戻る道すがら。
「でも、ぜったいに刺さると思うんだよなぁ」とミヨちゃん。
「まぁねえ。あの時代は男も女も目立ってなんぼみたいなところがあったって、いうから。女の人たちなんてもっとスゴかったそうよ」と並んで歩くアイちゃんが言った。
「あぁ、上にモリモリした髪のことだろう? よくもまあ、首が平気だよな。貴族の人ってじつは首が丈夫なのかも」と言ったのはリョウコちゃん。
「盛り髪の文化はいまもあるじゃない。夜のお店で働くお姉さんとか、あと地域によっては流行しているところもあるって、まえにテレビで言ってた」とはチエミちゃん。
「あー、それ、わたしも見た! 上に盛って、下にくるくるしてたやつでしょう?」
ミヨちゃんが自分も知ってる言い出し、チエミちゃんが「それそれ、美容室でセットに四時間、うん万円とか、スゲーって思った」と相槌をうった。
「あー、まぁ、現代でも盛りはファッショとして生きてるから。でも昔の方がぜんぜんすごかったらしいわよ。なんでも頭に池を作った猛者もいたらしいし」
パーティーで目立つ。
話題を独占する。
それが女性の名誉とされ、競われていた時代に、実際にあったらしい。
髪で池をこしらえて、水を張り、金魚を放って、みんなの度肝を抜いたとか。
カネに開かせてデカい宝石なんぞをつけるのなんて野暮の極み。趣向を凝らし独創性を追求したという。
後の世の人からすれば、「えーっ!」と言いたくなるものの、当時の人たちは真剣だった。
アイちゃんからこの話を聞いて、リョウコちゃんが「どうせ盛るなら、髪の毛よりも牛丼とかのほうが、わたしはいいかなぁ」と零して、みんなの笑いを誘ったところで、これまで後方にて静かにしていたヒニクちゃんがおもむろに口を開く。
「盛りは女の本能のようなもの」
話を盛り、見栄を盛り、ウソを盛り、しまいには胸や尻も盛る。
オマケてんこ盛りなお得商品に興奮し、群がるのも女性に多い特徴。
そしてついには自分自身のカラダに肉をモリモリ、もこもこに。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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