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503 神楽
しおりを挟む郊外にある大型ショッピングモール。
中央にある催事場に「ズンドコ」と鳴り響くのは太鼓の音。
静かで軽やかな音色がしばし続き、笛の「ピーヒャラ」が混じり合って、いかに和風な雰囲気に一帯が包まれた矢先。
不意に立ち上がった演者が「ドドン!」と太鼓を一層力強く鳴らした。
なごやかだった空気が一転して、暗雲が垂れ込める不気味な曲調に変わる。
姿をあらわしたのは一匹の白い龍。
角の生えており、ギョロリといかつい目が真っ赤に光る。大きな頭から尻尾の先まで、全長が四メートルほどもあろうか。
そんなシロモノを操者がたった一人にて駆っては、舞台の上にて右へ左へとうねりながら練り動き、時に尻尾をビタンと振るっては、大口を開けてキバを剥く。
その度に観客たちの間からは、拍手やら子どもらのハシャグ声があがる。
太鼓のリズムに合わせて龍が舞う。
長い体が空を飛ぶかのように動き、ときにトグロを巻いては地に伏す。
いつしかみなその動きに圧倒され魅了され、息を呑む。
するとふたたび「ドドン!」と太鼓が景気のいい音を立てた。
これに合わせて二匹目の赤い龍が登場。
白と赤の二匹が、まるで戯れるかのようにして踊る踊る。
時には互いのカラダを絡ませながら、ときには競うかのように、もしくは完全に動きをシンクロさせて。
妙技の連続に観客たちからは拍手が鳴りっぱなし。
と、そこでまたもや曲調が穏やかなものに変化。
静々と姿を見せたのは更なる龍。それも今度は青と黒の二匹が同時に。
これにて舞台上には合計四匹もの龍が出揃うことに。
舞台の大きさは、せいぜい横八メートル縦三メートル程度しかない。
一匹一匹のサイズが四メートルもある龍たちが動き回るには、あまりにも手狭。
だというのに、その限られたスペースで四匹は狂ったように激しく舞い踊る。
右回転、左回転、のびて縮んで、ときに跳ねる。
勢いよく動いたかと思えば、一転してピタリと動きが止まる。
静と動、緩急が目まぐるしく展開される。
トグロをまいた状態の龍が、立ち上がり大きな車輪のようなポーズをとる。
ふいに首が角度を変えては、観客をはっしと睨む。客席の幼子はあまりの迫力におもわず小さな悲鳴をあげて、母親や父親にしがみつくほど。
太鼓を叩く勢いが増し、火のごとく激しくなっていく。
それに合わせて赤と白の龍が、客席の間の通路へと立ち入り、観客のボルテージは一気に上がった。
よろこんだ客の一人がお札を手に龍へと近寄り、おひねりを差し出すと、龍は口を使って器用にコレを飲み込み、やんやと歓声があがる。
舞台と客席が熱気に包まれ一体となったところで、曲が厳かなモノとなり、舞台に姿を見せたのは銀色の剣を手にした英雄。
これより舞台上では四匹の龍と英雄との死闘が演じられることになった。
時間にすれば三十分にも満たない神楽の舞台を見終えた、ミヨちゃんとヒニクちゃんは興奮冷めやらぬ。
たまたま週末に訪れたショッピングモール。
ちょくちょく催事場にてイベントが行われていることは知っていたが、いつもは売れない演歌歌手とか、売れないお笑い芸人だとか、知らない着ぐるみだとかがモソモソしているばかりだったのに、今回は出張神楽舞にて大当たり!
「神楽ってはじめて見たけど、すごかったねー。たのしかったー」
ミヨちゃん大満足にて、ベタ褒め。
これを受けてヒニクちゃんもコクコクうなづきながら、おもむろに口を開く。
「ダンスの授業とかを取り入れるぐらいなら、こっちを学ばせるべき」
これからはコンピュータが大事だからと、それを採用。
もっと運動しなくちゃと、ダンスの授業を急遽導入。
ちっとも身につかない英語教育などなど。
自国についての理解もロクにないのに国際化とか、ぷぷぷ。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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