ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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508 うるおい

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 世の中にはいろんなマニアがいる。
 近頃、メジャーになりつつあるのが鉄道マニア。
 まぁ、これ自体は歴史が古く、奥が深く、幅も広く、すべてをひとくくりには語れないモノがある。
 変わったところではマンホールマニア。
 各地や地域によっていろんな柄があるらしく、これを求めて全国各地を巡っては写真におさめたり、魚拓のようにマンホール拓をとるツワモノもいるんだとか。
 信号機マニアもいる。
 すべて同じように見えて、これまた千差万別。利に適った形状から、小首をかしげる造りまで。これを求めて幾星霜。世界を巡る旅人になっちゃった方もいるんだとか。
 掃除機をこよなく愛するマニアもいれば、神社の狛犬を求め続けるマニアもいる。
 消しゴムを集めまくるマニアもいれば、各地のダムを渡り歩くマニアもいる。
 ビルマニア、建築現場マニア、工業地帯マニア、高速道路マニア、文房具マニア、しおりマニア、家電マニア、深海魚マニア、刀剣マニア、昭和マニア、平成マニアなどなど……。
 それこそマニアは星の数ほど巷にうようよ。

 趣味と言うにはあまりにも激しく熱く、さりとて直向にて周囲の理解はなかなか得られないけれども、当人はいたってマジメに真摯にとりくんでいる。

「なにをしょうもないことを」と小馬鹿にしている冷めた面々がいる一方で、「そんなに夢中になれるモノがあるのって、ちょっとうらやましい」とか考えている面々もいる。
 ミヨちゃんはどちらかといえば後者。
 少女マンガが大スキ。モフモフアニマルが大スキ。二時間サスペンスドラマも大スキ。警察特捜二十四時とかの系統の番組も大スキ。
 でも、マニアか? と問われれば「そこまでは」と自信がない。
 こと少女マンガに関しては、かなりのモノなのだが、それとても世に溢れるマニアたちと比べれば、ヒヨッコどころかタマゴのようなもの。
 立派なマニアになるには、膨大な時間と労力、熱意と資金力が必要不可欠。
 残念ながらどれも小学二年生の身にはきびしい条件である。
 親子で共通とかならば可能だが、そんなパターンは親がマニアであることが大前提にて、これまた中々のハードルの高さ。
 それこそ生まれたお家が大金持ちだった! ぐらいの強運が必要。
 でもそれならば、普通にマニアよりもお金持ちの方がいい。

「一流のマニアへの道はけわしいね」

 学校からの帰り道。
 商店街の模型屋さんのショーウインドウに飾られてある、カツオぐらいもある機関車を眺めながら、ミヨちゃんがしみじみ。
 今日、学校でヨーコ先生から「みんなも何か夢中になれるモノを見つけましょう。きっと人生がうるおうはずですから」と言われた。
「夢中になる」イコール「趣味」からの「マニア」へと思い至ったミヨちゃん。
 なんだか先生が言いたかったことと、若干、ニュアンスがちがっているような気がするものの、あえてヒニクちゃんはそこには触れない。かわりにこう言った。

「夢中と必死はちがう。ムリをするのは本末顛倒」

 マニア、特定のことに熱狂的な情熱を注ぐ者。
 オタク、大衆文化の愛好家。どちらかといえば消費者寄りの存在。
 趣味、自分が無条件で楽しめること。
 やってるうちにのめり込むか、何かの拍子にドはまりするのか。
 そこが問題だ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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