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515 不通
しおりを挟む携帯電話の普及を経て、スマートフォンの登場により情報端末の在り方はさらに変化。
メール、SNS、フェイスブック、LINE、ツイッターなどなど……。
繋がり方は多岐へと渡り、人と人との距離はいっそう近くになった。
その気になればいつでも、どこでも、誰とでも繋がれる。
それはとても便利にて、とても心強い。とても素敵なこと。
でも、だからこそ何らかの理由にて不通になったとき。
発信者たちに、とてつもない不安をもたらす。
返事がない。反応がない。連絡がちっともこない。
たんに相手が忙しい。たまたま手元にスマートフォンがなかった。あるいは意図的に無視しているケースもあるだろう。
機器や回線のトラブルによることもある。
もしかしたら事故や病気などで出たくても出られないことすらも。
いつも気軽に繋がれるからこそ、当たり前の感覚になっているからこそ、それが途絶した場合の反動が激烈となる。自分でも思っていたよりもショックを受けてへこむ。
昔ならば「なんだ? 都合が悪いのか。しようがないなぁ」で済んでいたものが、今だと色々と考えてしまう。「ひょっとして」とか「もしかして」なんて考え込んでしまう。
果てにはノイローゼになったり、恐怖症のような精神状態に陥るなんてこともあるとか。
便利で楽しくて夢中になるのもわかるけど、良薬とて過ぎれば毒になる。
どんなことにも光があれば影が差し、いい使い方をする人がいれば、悪い使い方をする人もいる。功罪入り乱れて、問題が発覚するたびに対策を講じ、試行錯誤しながらよりよい発展形を目指す。
世界に大きく恩恵をもたらし、貢献するほどの新しい技術や製品が登場するたびに、予期せぬマイナス面が噴出する。それは宿命みたいなもの。しかし……。
「結果として便利になったけど、なんだか不便にもなった気がする」
むーんと口びるを尖らせ、ムズカシイ顔をしているのは下校中のミヨちゃん。となりには仲良しのヒニクちゃんの姿もある。
今日、学校でイジメについていろいろとヨーコ先生から教わった。
ミヨちゃんが通っている学校では、この手の教育にとても熱心。
悪の芽は油断しているとあっという間にスクスク育つものだから。のびてから抜いていては手遅れとの教頭先生の判断にて、学校をあげて定期的に行われている。
本日の話では「仲間外れとかサイテー」「イジメ、かっこわるい」という内容とともに、様々なケースが悪例としてあげられた。
それがスマートフォンを用いたもの。LINEを用いたりと、現代社会に即した新しいタイプのイジメにて、これがけっこうえぐい。
なにせ学校だけでなく、家でも延々と続く。つまり逃げ場がない。
極端な話、目の前で直接的な方法であれば、ぶち切れて反撃も可能だが、回線を介されると当人そっちのけで盛り上がられて、ちょっとお手上げ。ゴリゴリと魂を削りとられてダメージが蓄積する一方。
「そんなもの、ムシしてしまえ! 相手にするな!」
気軽に大人たちはそう言うけれども、それが出来れば誰も苦労はしていない。
生まれたときから気がつけば、側にいつもスマートフォンがある環境で育った子にとっては、完全に日常の一部。それもかなりのウエイトを占める。これを切り離すなんて生き方そのものを彼らは知らない。
結果、現実とネット、学校とプライベート、どこにも逃げ場を失い、追い詰められた果てに……。
あいにくとミヨちゃんはまだスマートフォンを持っていない。
というか、いまどき珍しいぐらいに、その手の機器に疎い。
でも、だからこそ思わずにはいられない。
「人を幸せにするための発明なのに、これじゃあ開発した人もイヤになっちゃうよね」
嘆きにも似たミヨちゃんのつぶやき。
それを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「すべてはデジタルタトゥーとなりうる。そして悪業はブーメラン」
やった側は忘れても、やられた側は一生忘れない。
そして一度流出したデータは、ネットに入れ墨のごとく刻まれ、
おそらく文明が続く限りは半永久的に残る。深い怨念とともに。ガクブル。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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