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522 一日署長

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 消防署とか警察署で実施される催し。
 芸能人とか、著名人とか、地元縁の人とかを招聘して、一日だけ署長に就任してもらう。
 まぁ、だからどうしたと言えば、それまでなのだけれども。
 正直なところやる意味もよくわからないのだけれども。
 挙句に、後日、その呼んだ人が事件とか起こしちゃって世間を賑わせると、とんだとばっちりとか受けちゃうかも、なんだけれども。
 とりあえず来てもらったからには、防犯キャンペーンとかを展開し、世間に広く宣伝しつつ、啓発活動に勤しんでもらう。

「でも、これって署長さんってよりも、どちらかというのマスコットに近いよね。いや、むしろ着ぐるみレベル?」

 交番脇に設置された掲示板にて、今年の一日署長に誰が来るのかが書かれた、お報せポスターを眺めていたのは下校途中のミヨちゃんとヒニクちゃん。

「ドラマとかマンガとかなら、一日署長になったヒロインがバリバリ大活躍して、事件を解決! とかやっちゃうんだけど、実際にはたぶん何もさせてもらえないよねえ」

 少女マンガとサスペンスドラマ好きのミヨちゃん。
 わりとありがちなシチュエーションにて、「ついでに現場のイケメン刑事とかといい感じになっちゃうんだよ」と説明する。
 その話に黙って耳を傾け続けるヒニクちゃんは、じーっと告知ポスターを眺めている。

「あと、一日署長がいる間って、本当の署長さんはどうなってるのかなぁ。やっぱり降格? それとも名目だけで実際にはただのポーズなのかなぁ。でもお巡りさんがインチキ表示とかしちゃうのはいいのかしらん」

 一日署長と名乗っているのに、それはウソ。
 すなわち署をあげて、世間さまを欺くなんて。
 幼心に微妙なところを突いて来るミヨちゃん。
 彼女の中ではお巡りさんは正義の味方。
 黒が白となるのはふしぎと好印象なのに、白がちょっと黒くなっただけで「えーっ」となるのが人の心のふしぎ。
 ヤンキー、たまたま子猫を助けて、ヒロイン胸キュン理論。
 好青年、ヒロインに執着するあまり、ヤンデレ化の法則。
 これらに抵触する事案を前にして思い悩むミヨちゃん。
 だからウソとかつかれちゃうと、好感度がダダ下がりに……。

「あっ! でも変身ヒーローとかも周囲には正体を隠して、ウソをついてるし、ガッカリするほどでもないか」

 ヒーロー、なんだかんだで結局バレるの理。
 これを思い出して、自身の中での正義と悪の折り合いをつけたミヨちゃん、自己完結。
 その姿を眺めて、「ふむ」と頷いたヒニクちゃんがぼそり。

「世間の反応が微妙だったときの痛ましさは、とても見てられない」

 呼ばれたから来てみたものの、あんた誰? 状態。
 女子アナとかマイナースポーツ選手とか、認知度が微妙なランクは危険。
 そんな状態でパレードの先頭に立たされ、商店街を練り歩くとか。
 あれは地獄。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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