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526 値引き
しおりを挟む閉店間際のスーパー。
その総菜売り場では、値引きシールが貼られたお弁当が売られているそうな。
あいにくとそんな遅い時間に、お店へと行ったことがないミヨちゃん。兄たちからの伝聞である。
信じられないことに、五十パーセントオフ!
半額である! 千円もする豪華なうなぎ弁当が五百円となり、四百円にて大人気のカラ揚げ弁当が二百円となる。ときにはお寿司とかまで対象にっ!
もちろん、いつもあるとは限らないし、そんなお得な品を狙っている者も多いので、手に入れるのは、たいへんなんだとか。
昼間にお母さんといっしょに来店すると、たまに値引き商品は見かける。
もっともパンだったり野菜とかがほとんどにて、時間帯のせいか総菜系はとんと見かけない。
普段はずらりと居並ぶ野菜や果物を手に「うーん」とムズカシイ顔をして、手にとっては少しでもいい品をと、吟味に吟味を重ねているお母さん。
それが値引きシールがあるだけで、「ぱくっ」と喰いつき、容易く釣れる。
それだけの攻撃力を秘めたシール。
お財布のヒモの固さでは定評のある主婦をも、惑わすおそるべき存在。
同じ品ならば、一円でも安く買えた方がうれしい。
それもまた人の心理。そして購入した品が、ちがうお店では一円でも安かっときの悔しさといったら……というのも、また人の心。
損得にて揺れ動く喜怒哀楽。
だって、庶民なんだもの。
だから、値引き表記があればついつい目がいってしまいがち。
だけど……。
「さすがに、アレはちょっとちがうと思うんだよねえ」
長々と値引きについて語ったのちに、そうつぶやいたのは下校途中のミヨちゃん。
つい先日のことだ。
幼女が家族そろって郊外のホームセンターへと行った。
なんでも置いてる、大きなお店。
見たことも聞いたこともない、日常生活とは縁もない品々を前に、目を丸くし、興味深げに見て回っていたミヨちゃん。
その足がふらふらと引きつけられたのはペット売り場。
そこでは様々なグッズのほかにも、子犬やら子猫やらも扱っていた。
頼めば抱かせてもくれるそうだけれども、生憎とミヨちゃんはモフモフ系サイドよりNGを喰らっているので、遠目に指をくわえて見ているだけ。
そんなミヨちゃんの目に留まったのが、子犬の値段が書かれたプレート。
サラリーマンの月給が吹き飛びそうなゼロの羅列はともかくとして、気になったのが値引き表記。
通常価格の三割引き程度の数字を、赤いマジックで大きくアピール。
それを見てミヨちゃん、なんだかとっても悲しい気持ちになって、しんみり。
「値引きされてる子って、基本的にはお弁当と同じ理由なの。商売だからなんとなくしかたがなかなぁ、とか思うけど、やっぱり。うーん」
ガラスケースの向こうから、円らな瞳で、集っている人々を見上げる小さな命。
たとえ商売っ気が込み込みとはいえ、お店側としては「早く素敵な飼い主さんを見つけてあげたい」との考えがあると信じてる。
きっとそう。もしもそうでなければ許さない。
「でも、なぁ」
ミヨちゃん、現実を前にしておおいに悩む。
これを受けていっしょに下校していたヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。
「出会いは奇跡にて、プライスレス」
うん十万円で買った出会いだろうと、道端でのめぐり逢いだろうと、
最終的に心からの感謝が自然と口から零れるような、
そんなステキな関係を築けたら、双方にとって、とってもしあわせ。
値引きシールが紡ぐ縁もある、かもしれない。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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