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532 小恐竜
しおりを挟む子どもたちがザワついている。
公園にて恐竜が目撃されたという。
ノシノシと我が物顔で歩く緑色の個体。長い尻尾に、トゲトゲの背びれ。二メートルぐらいもある大きさにて、ゲームに登場するモンスターのようだったとのこと。
そんなモノがいるとの情報が流れれば、好奇心旺盛にて物見高いことでは定評のある子どもたちが探しに行かないわけがない。
おかげでいつにもまして週末の公園は大盛況。
しかし人が集まるほどに姿を見せないのが、この手の未確認生物のお約束。
ネス湖のネッシーしかり、ヒマラヤの雪男しかり、北米のビッグフッドしかし、心霊番組でロケバスが向かう廃墟の幽霊しかり。
膨大な予算と時間をかけるほどに、ナシのつぶて。
かと思えば忘れた頃に、偶然、目撃されちゃうとか。
「恐竜の生き残りとか、たまに話題になるけれども、いたためしがないよね」
そう漏らしたのはミヨちゃん。本日はヒニクちゃんと急遽探検隊を結成しての参戦。
テレビで特番があるたびについつい視てしまう。
そしてラストには適当にお茶を濁される。
何度、失望させられたことか。初心な視聴者をだまくらかすテレビ局の悪辣さに憤りを覚え、小さな拳を怒りでふるわせたことか。
なのに、ついついまた引っかかってしまう。
「埋蔵金とか財宝伝説とか、本当にいい加減にしてほしいよね。あんなことを繰り返しているから、若者のテレビ離れが加速されちゃうんだよ。『ヤラセを演出だ!』とか開き直るから信用がガタ落ちなんだよ」
小さな視聴者の小さな不満。
こういうものが降り積もって、やがて大事へとつながるのだ。
真に耳を傾けるべきは、名もなき草花の声であるとミヨちゃん力説しつつ、草むらをガサゴソ。「どこにもいないねぇ」
もしも見つけ出せれば、いちやく時の人。
仲間たちから勇者として称えられ、一生の誉れとなる。
かもしれない。
まぁ、いつの世も、どの世代でも、先駆者というのは一目も二目も置かれるもの。
「すげえ」「さすが」なんぞと褒め称えられるのは、大層、気分がいい。
あと探偵団とか探検隊とかいうシチュエーションはちょっと燃える。
おかげで今回の恐竜騒動にて、どれほどの数の隊が結成されていることやら。
公園内を適当にぶらぶらしつつ探索するも発見ならず。
いい加減につかれたミヨちゃんたちは、池の畔にある遊歩道のベンチで一休み。
ぼんやりとしている間にも、意気揚々と虫取り網なんぞを片手に右往左往している男の子たちを多数見かける。なかには魚釣りようの大きな品を持ち出している子もいたけれども。
「捕まえたら捕まえたで、きっと扱いに困るんだろうねえ」
生き物を飼うのにはしっかりとした知識と手間とお金がかかる。
愛だけではネギの一本も育たないのが厳しい現実。
いっときのテンションに流されて、無責任に命を投げ出す輩のなんと多いことか。
「いい加減に、動物をイジメたら鉱山労働の刑を導入してもいいと思うんだよね。もしくは被災地にての強制労働」
そんなことをベンチでうつ伏せに寝転がりながら、つらつら述べていたミヨちゃん。
その口が急に黙り込んだ。
見れば背中に青緑の物体が乗っている。
これを目撃しておもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「グリーンイグアナは基本的におとなしい性格」
とはいえ発情期の雄はちょっとイライラしているから要注意。
でもその時期の動物はおおむねそんな態度になるもの。
五千円前後で買えちゃうけど、設備費と空調費はそこそこかかるから。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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