ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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534 逃走

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 本日は集団下校にて、先生の付き添いアリ。
 実施されることになった理由は、さる逃走劇にある。
 県下の某警察署にて留置されていた人物が、隙をみて脱走。行方をくらませた。罪状自体はしようもないモノにて凶悪犯というわけでもない。
 とはいえ追い詰められたら小動物とて牙をむく。
 自棄を起こされて二次被害が出たら、目も当てられやしない。
 おかげで近隣は大わらわ。
 そこかしこにて制服のお巡りさんたちの姿や、パトカーが目立ち、街全体がザワついている。

 なんともいえないピリピリムードが漂う通学路。
 とはいえ当の子どもたちは、普段とちがう空気に怯えるというよりは、ちょっとワクワクしちゃっている。
 さすがにホラー映画に登場するような殺人鬼が徘徊しているとかならばビビりまくるが、相手がコソドロでは、いまいち危機感が薄い。
 だからイベントみたいにて、油断しまくり、はしゃぎまくり。
 これを引率する先生は、おかげでとってもタイヘン。

「最近、この手の話って何げに多いよねえ」

 並んで歩いているヒニクちゃんにミヨちゃんが言った。
 刑務所からの脱走、裁判所からの逃走、警察署から、もしくは逮捕劇のどさくさに紛れて。
 悪い人が捕まると、そのまま檻の中だと思っていたミヨちゃん。
 実際には「やれ保釈だの」「在宅起訴だの」「出頭要請だの」といろいろあって、わりとあっさり解放されることがあると、最近になって知った。
 ドラマや漫画ではとっ捕まった悪は、相応の罰をバシッと与えられるのに、現実ではけっこう対応がぬるぬる?

「そもそもの話、わざわざ捕まえた相手をどうして放しちゃうのかが、わかんないよ。『逃亡の恐れがない』とか『証拠隠滅の心配がない』とか、どういう基準で判断しているのかな」首をコテンとかしげながら腕組み。ミヨちゃんは言った。「そもそも悪党はウソがうまいから悪党であって、裁判所の人とかって基本的にマジメでいい人が勉強をがんばってなるもんだよね? 善人と悪人が騙しっこをしたら、そりゃあ悪党が勝つに決まってると思うんだけど。だってプロだし」

 素人と玄人が相対すれば、当然ながら玄人が勝つ。
 多くの経験を積んだ、ウソを見破るプロ?
 だとしてもたぶん、最終的には勝てないような気がするとミヨちゃん。
 なぜなら、ウソはその気になればいくらでもつける。それだけお手軽にて場数を踏め、経験値がどんどんと蓄積される。というかターゲットを選べる時点で、圧倒時に有利。
 対して見破る側は、たいへんだ。相手のウソを一つずつ破って、それを証明していかなければならない。
 やりたい放題に対して、ちまちま。
 暴走族相手に、三輪車で追いかけているようなものであろう。
 いくら声を張り上げて「止まりなさい!」と言ったところで、聞くはずもなく……。

「けっきょくさぁ、認識が甘いんじゃないのかぁ。国家権力がバックについているから、気が大きくなるあまり、内心で相手を見くびっているだよ。自分たちの言うことを聞かないはずがないって。でなきゃあ、そうもホイホイ逃げられるなんてこと、起こらないと思うんだよ」

 なかなか辛辣なミヨちゃん。
 彼女は少女マンガと二時間サスペンス、あと特捜警察二十四時とかの番組も大好きにて基本的に現場でがんばるお巡りさんたちが好きである。
 だからこそ、その努力を台無しにしてしまうような失敗に、とっても憤っている。
 同じ過ちをくり返し、ちっとも学ばない体制に小さな拳を震わしている。
 これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「いい加減に腹をくくって、監視カメラを設置すればいいと思う」

 やれプライバシーだなんぞと口にする自称人権派の面々。
 でも身の安全と平和を脅かす脅威とを天秤にかけたら、ねえ。
 すべての信号機にいっしょにカメラを設置する案なんて、どうかしら。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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