ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

553 三大

　
　世界三大美女といえば、あと少し鼻が低かったら歴史は変わっていたであろうといわれるクレオパトラ、その美貌ゆえに王を狂わせ傾国をもたらした楊貴妃、数々の逸話や歌を残しつつも詳細が不明な小野小町。
　世界三大珍味といえば、チョウザメの卵を塩漬けしたキャビア、ガチョウやアヒルの肥大した肝臓であるフォアグラ、香り高く貴重ゆえに黒いダイヤとも呼ばれるトリュフ。
　世界三大宗教といえば、南無南無拝む仏教、アーメンなキリスト教、コーランという聖典をとても大切にしているイスラム教。
　世界三大河川といえば、巨大な熱帯雨林を横断する世界最大級のアマゾン川、アフリカ大陸最長にして人類史を語る上で欠かすことのできないナイル川、アメリカにあってトムソーヤの冒険でもお馴染みのミシシッピ川。
　世界三大瀑布といえば、南アメリカ大陸にあるイグアスの滝、アフリカ大陸にあるヴィクトリアの滝、北アメリカ大陸にあるナイアガラの滝。どれもこれもすさまじい水量にて見る者を圧倒する。
　世界三大夜景といえば、中国にて異国情緒あふれる香港、日本は北海道の函館、イタリアの風光明媚なナポリ。百万ドルの夜景、一千万ドルの夜景なんて表現が用いられることもあって、人の産み出した最上級の美の一つでもある。ちなみに日本は夜景大国。宇宙から見たら、とっても凄いんだとか。伊達に小さな島国でおしくらまんじゅうしているわけじゃない！
　世界三大秘宝といえば、ツタンカーメンの黄金マスク、ミロのヴィーナス、モナリザの微笑み。
　世界三大美術館といえば、メトロポリタン美術館、ルーヴル美術館、エルミタージュ美術館。
　世界三大喜劇王といえば、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイド。
　世界三大発明といえば、印刷、火薬、羅針盤。
　世界三大ファンタジーといえば、指輪物語、ナルニア国物語、ゲド戦記。
　世界三大といえば、こんなものもある。
　その名も世界三大無用の長物。
　ピラミッド、万里の長城、戦艦大和。
　歴史的建造物だったり、もの凄い総工費用がかかっていたり、そのわりにちっとも役に立たなかったり、スゴイけどよくよく考えたら「いらないかも」と言われちゃう存在。

　まぁ、これ以外にも世界三大ほにゃららというモノは、巷に溢れ返っている。
　自然、環境、地形、建築物、遺跡、文化、芸術、飲食物、経済、産業、宗教、人物、スポーツ……、果ては疾病なんてモノまで！

「なんで、三なんだろうねえ？　にしても多すぎ。なんでもかでも世界三大をつければいいってものじゃないと思うんだけど」

　いつものように仲良しのヒニクちゃんと下校していたときに、ミヨちゃんが首をひねる。
　今日、学校で世界三大通貨「ドル、ユーロ、円」についてヨーコ先生から習った。
　その話の際に、世界にはいろんな三大が存在していることも教わる。
　先生の話に「へー」と感心していたミヨちゃんだが、知れば知るほどに「三のナゾ」が自分の中で膨らむのを抑えきれない。
　ミヨちゃんの疑問を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「三大ほにゃららは自称。言ったもの勝ちの箔付け。タダで設置できる看板」

　ちなみに世界三大がっかりさんは、シンガポールのマーライオン。しょぼい。
　コペンハーゲンの人魚姫像。やっぱり小さくて微妙。背景が工場なのもマイナス。
　ブリュッセルの小便小僧は近所の公園の奴の方がアレやコレが立派。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。