ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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 いつものように真っ赤なランドセルを背負っての登校。
 それ自体は改良がすすみ軽量化が加速。肩に負担がかからないように構造や素材にも気をつかわれてあるので、背負い心地は悪くない。
 だがしかし、中身は別だ。
 むしろ教科書は年々、厚みを増しているような気がする。
 種類も減ったり増えたり、スリム化とかいいつつも、結局、増えているような……。
 横着をしてあらかたを教室にある自分の机や、後ろの棚に放り込んでおけば楽なのだけれども、女の子たるものそんなはしたないマネは出来ない。
 だからミヨちゃんは、毎日、せっせと持ち帰っては、また持ってくるを繰り返す。
 おかげで、毎朝、「ふぅふぅ」軽く息が乱れて、うっすらと汗ばんでしまう。

「おはよう、ミヨちゃん。毎日、がんばるねえ。わたしはとっくにギブしたよ。登下校はともかく団地の階段がキツすぎる。あんなの続けてたら、足がムキムキになっちゃうもの」

 声をかけたのはチエミちゃん。
 容姿、能力、その他もろもろがすっぽり平均値に収まる子。
 ちなみに家は団地にて、エレベーターはない。そのせいで近頃、年寄り連中がこぞって階下に転居している現象が周辺で起きている。

「わたしはいいトレーニングになるから、ちゃんと持って帰っているぞ」

 会話に参加したのはリョウコちゃん。地元のサッカーチームに所属するスポーツ少女は、ときにランドセルを前に担ぎ、背に幼稚園年少組の弟をのせ、小走りするという荒行をもこなす、とってもタフな子。

「忘れ物が減るメリットは認めるけど、アレと同じってのが私はダメ。ここだけはゆずれない一線ね」

 クラスのオシャレ番長アイちゃんは、流行を取り入れたステキな格好のわりには中身は古風。乙女の沽券を重んじる、ヤマトナデシコ。
 そんなアイちゃんが冷ややかな視線を向けているのは、クラスの男子たち。
 大半の机と棚の中がぱんぱん。教科書だけでなく、他にも怪しげなブツがいろいろ入っている。カピカピのパンとか、カチカチのパンとか、カビカビのパンとか、萎れたグリーンピースとか、しっとり湿気った体操着とか……。
 しかもそのせいでやたらと重たいので、掃除の時間とかの机の移動がとってもたいへん。
 うっかりガタンと机を倒して、中身をぶちまけた日には……。
 きっと悪夢でうなされるにちがいあるまい。
 アイちゃんの力説を聞いて、女子一同、ぶるると肩をふるわす。

「あんなのといっしょにしないで! わたしはちゃんと選んで置いてあるんだから」

 チエミちゃんが懸命に自己弁護。実際のところ、あまり使用頻度の高くない教科とか教材を整頓して置いてある。
 だがソレはソレとして、彼女が必死になればなるほどに、怪しさが増すからとってもふしぎ。
 こうやって巷では冤罪と風評被害が蔓延していくのだろう。
 そんな女子たちを尻目に、「ふふふ」と意味深な笑みを浮かべたのはミヨちゃん。

「たしかに毎日たいへんだった。でも、それももう終わりだね。わたしはとんでもない発明を思いついてしまったのだよ。どうしよう、ランドセル長者になってしまうかもしれない」

 なにやら自信ありげなミヨちゃん。
 で、そのアイデアというのは、ランドセルに車輪をつけて、おばあちゃんとかが買い物の時に持っているキャスター付きのショッピングバッグと同じような品にするというもの。
 ランドセルのスーツケース化?
 言われてみれば、たしかにいけそうな気がしないでもない。
 しかしこの意見を耳にしたヒニクちゃんが、おもむろに口を開き、身も蓋もないことを言った。

「それならキャリーケースで登校すればいい」

 軽くて、丈夫で、おしゃれなキャリーケースはたくさんある。
 折りたためるのもあるし、荷物を一杯入れてもらくらく移動。
 ただし段差がネック。歩道橋とか学校の階段、あと道路の段差もあなどれない。
 バリアフリーにはほど遠い現状では、かえってしんどいかも。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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