ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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568 師走

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 師走になると世間がどこか忙しない雰囲気。
 イベントてんこ盛りにて、人心もまたちょっと浮ついたものとなる。
 けれども子どもたちは、ちょっとだけいい子になる時期でもある。
 なぜならアレとアレが控えているからだ。

「今年のクリスマスプレゼント、何を頼む?」

 休憩中の教室の片隅にて。
 周囲にたずねたのはチエミちゃん。小学校二年生ともなれば、すでに数多のサンタ論争を潜り抜けており、おのずと答えを持ち合わせている。
 サンタ論争とは、「いる」「いない」の不毛な議論のこと。
 結論から述べると、サンタはいる。ただし、子どもにとっての都合のいい太っ腹なおっさんはいない。いい子だからといって、欲しいオモチャをなんでもプレゼントしてくれるサンタは、限られたお宅にしかあらわれないのである。それこそ暖炉がある立派な家の子のところぐらいにしか。
 ちなみにチエミは、すでに親サンタを認知。
 それゆえに高望みはしない。デラックス人形ハウスとか、大きなヌイグルミとか、天蓋つきベットとか、素敵な王子さまとか願って親を困らすことは、もうヤメた。
 今年は無難に大人気のゲームシリーズの最新版を選択。

「プレゼントねえ……、うちには弟がいるし。新しいジャージとかじゃないかなぁ」

 色気もへったくれもない内容を口にしたのは、サッカー少女のリョウコちゃん。
 ボールはすでに持っているし、スパイクはダメになるごとに買い替えて貰えている。日頃からわりと出費がかさんでいるので、クリスマスだからとて特別に何かを望まない出来た子。ちなみにサンタが父親なのは、とっくに知っている。
 かわりに幼稚園の年少の弟が、やれ「合体ロボットが欲しい」だの「イヌを飼いたい」だのと、サンタさんにお願いしているそうな。
 クレヨンで書きなぐった手紙を渡されるたびに、母親が引きつった笑みを浮かべているんだとか。

「わたしは冬用のコートかなぁ。この間、白くてかわいいのを見つけたんだ」

 クラスのオシャレ番長であるアイちゃん。
 サンタさんにお願いする品もまた、ファッション関係となる。
 女子高生にて読者モデルをしている姉がいるので、お古にはことかかないのだが、いかせん年の差があるので、使える物が限られてしまう。
 かといって子どもは体が成長するものだから、せっかく買ってもらってもすぐに着れなくなってしまうのが、目下の悩みの種。
 サンタさん? 見たことないけど、姉がたまにベッドに忍び込んでくるわよ。

 三者三様にて、幼女なりに慮ってのご意見。
 これを聞いていたミヨちゃん。うんうん、頷きつつこう言った。

「わたしはトースターを頼むつもり」

 縦に入れて、チン! となって飛び出してくるトースター。
 横にする奴だとパンの上にチーズをのせたり、いろいろと楽しめるし、グラタンとかも調理できる。コロッケを温めるのにも重宝する。表面がカリカリだ。
 比べて昔ながらの縦型はパンを焼く以外に用途がない。
 なのに、それをミヨちゃんが欲したのは、単にデザインがかわいかったから。
 世の中には使えない家具家電をインテリアがわりに飾ることもあるらしい。
 それを知ったミヨちゃん。だったら自分の部屋に置いてみようと考えた。
 この話を聞いて、チエミちゃん、リョウコちゃん、アイちゃん、三人は微妙な顔をする。
 そしておもむろに口を開いたのはヒニクちゃん。

「インテリアに素人が手を出すのは危険」

 空き缶やビン。壊れて動かなくなった家電。飾り方、見せ方一つで、
 オシャレになるけれども。あれはかなりの上級テクニックにてセンス爆発。
 ちなみにわたしはサンタに、家庭菜園用の電動噴射機をお願いするつもり。
 シュコシュコとポンプを押す手動のやつはしんどいから。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。

 ※ヒニクちゃんの趣味は家庭菜園。家の裏庭で育てているぞ。


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