ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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「ちかごろ、境界があやふやになってるんだよ」

 商店街の本屋さんの前を通りかかったときに、ミヨちゃんがぽつり。
 文芸、キャラ文芸、ライト文芸、ファンタジー、SF、時代小説、伝記小説、ホラー、サスペンス、ミステリー、恋愛などなど……。
 次々に生まれる趣向が凝らされた作品たち。
 いろんな組み合わせや要素を取り入れて、新規の路線を開拓。
 新たな道が生まれると、それに殺到する新作たち。
 で、ある程度、飽和状態となり、そろそろ頭打ちかなぁ。となったところで、また新た路線が開拓され、以下略。
 まぁ、これはべつに書籍に限った話ではない。
 ファッション関係などを想像すると理解しやすいだろう。
 流行はくり返す。まるで渦まきのごとくグールグルと。
 もちろん単なるリメイクではない。時代時代に即した新たなエッセンスを交えつつ、より洗練されて復活!
 ときにはあえてクラッシックスタイルを貫くこともあるけれども、それでも素材とかちょっとした箇所には改良がきちんと施されてある。
 サスペンスドラマの刑事の台詞ではないが「迷ったら現場百ぺん」
 原点回帰にて、過去をじっくりと検分し学び、未来への活路を見出す。
 そうやって生まれたヒットは数知れず。

「でも、そのせいで本屋さんでは棚問題が発生しているんだよ」

 ミヨちゃん首をふるふる「やれやれ」とタメ息。
 より多彩になるジャンル。出版社から届いた新刊本を見て店主は首をかしげる。

「はて? これはどこに並べたらいいものやら」

 小説やマンガなどの明確なちがいは問題ない。
 問題なのはその各分野での区分。
 例えばこんな話の小説がある。
 異世界に行って、素敵な王子さまと恋愛したり冒険したりしながら、仲を深めていき、ついには結ばれるというもの。
 男性向け、女性向け、どちらでも最近、この手のライトノベルが増えている。
 だが「これはファンタジー? それとも恋愛? えっ! もふもふスローライフ? いったいぜんたいどこに並べたらいいんだよ!」と店主はぶつくさ。
 せめて出版社から「ぜひ、こちらに飾って」とでも具体的な要望があれば、まだ指針となるのだけれども、それがない。
 というか、おそらく出版社どころか書いている著者ですらもが、自分の作品のジャンルを明確に答えられないのだろう。
 いろんな要素を巧みに取り入れて、一つの作品へと仕上げるのはとってもたいへん。
 けれども面白さてんこ盛りにて、読者の反応がいい。だからこの手の作品がずんずん増える。
 増えるほどにバリエーションの枝葉も広がる一方にて、その結果が現状。
 これがミヨちゃんの嘆く「境界があやふや」ということ。

「異世界に行ってるんだからファンタジーでいいんじゃないの。って思うけれども、中身の比重が恋愛寄りだと、ファンタジーファンからは『それは恋愛ジャンルだろう』って文句が入るの。かといってそっちに含めたら今度は恋愛ファンから『こっちくんな』って怒られちゃうの」

 まるで仲間外れにされる蝙蝠のおとぎ話のような展開。
 部外者からすると「そんなのどっちでもいいじゃん。面白ければ」とか考えちゃうんだけれども、人間、好きなモノにほどムキになる。
 そのしわ寄せが現場に来ているというお話。
 これを聞いてヒニクちゃんがおもむろに口を開く。

「とりあえず小説は自由だー! と叫んでおく」

 文学論争とか昔から続いているけれども、未だに明確な答えは出ていない。
 そもそもそんな区分が本当に必要なのかどうかもわからない。
 まぁ、妖怪が登場している時点で立派なファンタジーだと思うのだけれども。
 結局は出版社の胸先三寸ということかしらん。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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