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578 金運

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 いつものごとくミヨちゃんとヒニクちゃんが仲良く下校していたら、道端に雑誌が落ちていた。
 背表紙には開運グッズのうさんくさい広告がでかでかと印刷されてある。
「ずっとついてなかったボクがこいつを手に入れて人生がかわった」とかいう例のアレ。
 印刷されてあったのは開運の金ぴかサイフの商品。
 そういえばヘビの皮をお財布に入れておくと、金運が上がるらしい。
 昔からまことしやかに巷にささやかれていること。
 あとはおみくじの大吉をとっておいたり、お札を変則的に折りたたんで疑似的に一億円札なんかをこしらえてしのばせたり、そっち方面のご利益があるというお守り、パワースポットで拾ってた石、四つ葉のクローバーのしおり……。
 なんだかんだでみんなお金が欲しい。
 だからゲンを担ぐ。運気アップにすがる。
 もっとも効果のほどは、アレだけれども。

 かくいうミヨちゃんは、お札よりも小銭の方が好き。

「重くて、じゃまだよ」という大人は多いけれども、幼女的にはその重さが魅力。ずっしりとくるのが、いかにも「カネ!」って感じがする。感覚的には海賊が金貨の山を前にして「ひゃっほー」と興奮しているようなもの。
 だから百円玉よりも、十円玉が十枚の方が、なんだかテンションが上がるミヨちゃん。
 おかげで小銭入れは、たいていパンパン。
 でもコレを見たおばあちゃんが呆れ顔にてこう言った。

「財布に余裕がないと、新しいのがちっとも入ってこなくなっちゃうよ」と。

 これもまた微妙に金運アップに絡む事案。
 ミヨちゃんとてお金は欲しい。お金がたくさんあれば少女マンガもかわいい小物も、おいしいお菓子に素敵な洋服だっていっぱい買えちゃうから。
 子どもが無垢な天使なんていうのは大間違い。
 子どもは基本的に物欲の塊にて、欲望に従順忠実まっしぐら。
 もしも訓練を積んだ警察犬と「待て勝負」をしたら、たぶん負けちゃうぐらいにガマンなんて出来ない。子どもたちの辞書に「しんぼう」なんて文字はない。ただし「あきらめ」の文字はあるけれども。

「でもさぁ、そういうわりには大人たちのおサイフもけっこうパンパンなんだよねえ」とミヨちゃん。

 レシートの束を筆頭に、とっくに有効期限の切れたクーポン券。どこの店かも思い出せないところのポイントカード。ドラッグストアの会員券だけで五枚も六枚も。内科、歯科、眼科に皮膚科に総合病院などの各種診察券。免許に保険証、住民カード、キャッシュカード、レンタル店の会員カードなどなど。
 これにメモ書きなんかも挟まっており、それこそ財布の形が膨張して変わっちゃうほどにパンパン。
 そのくせ肝心のお金はというと……、うーん。
 ってなものでちょっと残念な感じ。

「風水とかもそうだけど、あの手のことに凝ってお金持ちになった人って身近にいないよねえ。手に数珠とか巻いてる人もしょっちゅう見かけるけど、本当のお金持ちの人ほどこざっぱりした格好をしている気がする」

 独自のお年寄りネットワークを持つミヨちゃん。
 中には社長さんとか、地主さんとかもちらほら混じっている。それゆえに本当に懐がパンパンな人と会うこともわりと多いので、自然と観察する機会に恵まれた。
 幼女の率直な意見を耳にして、ここでおもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「金持ちにも二種類いる」

 じゃらじゃら高級品を身に着けて悦に浸っているのは、お金に振り回されてる証。
 さりげないところにビシっとお金をかけているのは、お金が定着している証。
 欲しい品をアレもコレも手に入れているうちは、まだまだ甘い。
 そんなものはとっくに卒業したと言えるぐらいにならないと。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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