ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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585 落陽

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 週末に長男のヒロ兄が運転する車で、郊外にある大型の古本屋へとやってきたミヨちゃん。
 大掃除の一環で不要と判断された本を買い取ってもらうために、足を運ぶ。
 これに誘われてくっついてきたヒニクちゃん。
 ダンボール五箱分もの本の大半は学術書の類。
 元の値段は非常に高く、そのくせ買い取り価格は非常に安い定番のラインナップにつき、金額については正直、それほど期待はしていない。
 まぁ、捨てるぐらいならば……といった感覚。
 あとはお小遣いをもらって部屋の空きスペースを作ったようなもの。
 うん千円もするような本が百円、十円、下手をしたら一円どころかタダで引き取られちゃうことを知って、ミヨちゃんが「もったいないねえ」とぼやく。

「正直なところ、そう思うよ。けど後輩とかが欲しがるものはそっちに回したし、これは置いていてもしようがないものだから」

 ちょっと寂しげにそう答えたヒロ兄。
 知の結晶たる本を安易に処分することは、学問の徒にとっては口惜しいもの。

「オークションとかで自分で売っちゃうのはダメなの? たまにテレビでやってるじゃない」

 ミヨちゃんが言っているのはテレビの企画にて、携帯のアプリを使っての商品の個人売買。
 すべて自分でやる分、リサイクルショップとか古本屋に売るよりも、ぐんとお高く売れちゃう。手間はかかるけれども、うま味も多い。
 ゴミみたいな品でも売れるらしいから、安く買い叩かれるぐらいならば、そっちの方が断然お得のような気がする。
 が、ヒロ兄は首を横にふった。

「あれはしょせんテレビだから。調子のいいこと言ってるけど、そうそう出品したものが必ずしも売れるわけじゃないし。手間もそうだけど、なにより時間がかかるから。すべてをさばこうとしたら、それこそ半年、下手をしたら年単位になるかも。さすがにそこまでは付き合いきれないかな」

 そのあたりのことを代わりに行うからこそ、実店舗での買取価格は激安。
 人件費やら、店舗の維持費やら、光熱費にその他もろもろ。
 例えば、十円で買い取った品を五百円で販売。
 素人目にはぼったくりじゃん! と憤りがちだが、必要経費が加算されていくと、どうしたって販売価格は跳ね上がる。
 棚に並んでおいてあるだけでも経費はしっかり掛かっている。
 他の商売みたいに売れ筋とか、販売時期がわからない以上は、店頭に並んだ瞬間に売れることもあれば、三か月かかっても半年かかっても売れないこともある。
 あんまり残っていたら価格を下げなくちゃいけないので、その分、しっかり負担が店側に。
 まぁ、商いの道には裏にいろいろと大人の事情があるもの。
 それを垣間見て、知った幼女は「そっかー」
 ヒロ兄が買い取り専用のカウンターにて手続きをしているのを、脇に並んで眺めていたミヨちゃんとヒニクちゃん。

「でもさぁ。これって結局、自分たちの首を自分で絞めてるんじゃないかなぁ」とミヨちゃん。

 買い取り価格が安い。安いから売らない。他のところにずんずん商品が流れる。他所に流れた分だけ集まらない。店舗の棚が寂しく。しょぼい品ぞろえにて客が離れる。売り上げが減るからその分、また買い取り価格で穴埋め。以下同にてぐーるぐる。
 幼女の素朴な疑問を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「坂を転がりだすと、だいたい止まれない」

 昇れば落ちるは自然の摂理。景気のいい時もあれば悪い時もある。
 行列のできるラーメン屋が数年後には消えてるように一寸先は闇。
 斜陽業界は、だいたい余計なことをして客離れを加速させるのがお約束。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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