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590 自動販売機
しおりを挟むいつの頃からか、学校の通学路に怪しげな自動販売機が存在している。
一回千円にて、何がでるかな? というタイプのもの。
扇情的な看板に並ぶのは腕時計、携帯ゲーム機、音楽プレーヤー、アクセサリー、大きなぬいぐるみ、えろカッコいいフィギュア、何に使うのかよくわからない道具などなど……。
高額と思われる商品がずらりと並んでおり、あまりの豪華ラインナップに「本当に入っているのかよ?」との疑念を抱かずにはいられない。
はっきり言って、むちゃくちゃ怪しい。
でも気になる。
なぜなら子どもはクジ引きが大好きだから。
駄菓子屋の当たりくじにはじまり、ガチャガチャ、お菓子の当たり、縁日でのクジにもついつい手がのびる。
クジなんて、そうそう当たるもんじゃない。
そんなことはよーくわかっている。
それでもチャレンジしたい! もしかして! ひょっとしたら! との夢を見る。
だって人間だもの。
大人たちだって宝くじを買う。それもけっこうな量を一挙にどかんと大人買い。
まぁ、結果については、くろくど語るまでもあるまい。
夢破れて山河あり。諸行無常が世の理。死屍累々を踏み超えて、ごく一部の勝者が高笑い。
それでも頂きに憧れ、手を伸ばさずにはいられない。
自制と知性を併せ持つ立派な大人ですらもがそうなのだから、幼女の身ならばなおのこと。
だからナゾの自動販売機の前を通りかかるたびに、気になってしようがないミヨちゃん。つい足を止めてしまう。
さりとて一回千円は高い。小学二年生にはあまりにも非情な料金設定。
あんまり気にしているものだから、前に一度、兄たちが「お金なら出してやるから、一回、やってみるか?」と言ってくれたけれども、散々悩んだ末にミヨちゃんは断る。
人の金でギャンブルはなんだかちがう。
幼心にそう感じたからだ。
もしも当たりが出たところで、きっと心の底からよろこべないだろう。
かといってお小遣いをやりくりして挑戦するには、踏ん切りがつかない。
というか自由にしていい千円札があっても、たぶんやらない。
とっても興味はあるけれども、あくまで好奇心の範囲内にて、自分の中での優先順位が低いからだ。
不確定要素の塊のようなことに千円を費やすぐらいならば、それで確実に手に入る幸福を目指したい。でも……。
「わたしって、じつはつまらない女なのかもしれない」
ナゾの自動販売機を前にして、「ふぅ」と悩ましげなタメ息をこぼすミヨちゃん。「冒険できない自分にちょっとブルーかも」
悩めるミヨちゃん。
その隣にてヒニクちゃんは、じーっと景品のラインナップをにらむ。
すると隅っこに小さな文字で「これはあくまで景品の一部で、必ずしもうんぬん」の但し書きがちゃっかり記載されてあるのを発見する。
この手のギャンブル性の高い商売では、一定の割合にて当たりを混入するように法律で決まっているというが、抜け道も多い。
果たしてどこまで信用していいものやら。
何度目かのミヨちゃんのタメ息を耳にして、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「ギャンブルを冒険や挑戦と言うのは、ジャンキーの常套句」
酒、タバコ、ギャンブル、これを知らずして何の人生か?
えー、知らないのぉ? あなた人生の半分は損しているわよ。
たまに聞く台詞だけど、余計なお世話だと私は声を大にして言いたい。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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