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597 福袋

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 お値段以上の品がゴロゴロ。
 中をのぞけばおもわず笑みが自然と零れちゃう。
 とってもお得な福袋。
 かつては何が入っているのかがわからないから、当たりハズレがあったし、若干のギャンブル性もあった。けれどもだからこそそれなりに縁起物として楽しめた。
 いつの頃からか、若い人たちが購入直後に開封、商品の交換会を即席で催すようになる。
 自分のいらない品を、他の福袋購入者と物々交換。
 それまで裏でこっそりやっていた取引を堂々と人前で行う。これも時代の流れというやつかと、当時はそれなりに物議をかもしたものである。
 やがて中身が丸見えの品が登場。

「えー、そんなの、もう福袋じゃないよ」という批判の声もあれば「よくぞ、やってくれた! これで安心して買える」と賛辞の声もあがる。
 賛否両論の中、それでも支持層が次第に広がっていき、いまでは市民権を得て当たり前となった。
 ときに中身の組み合わせを事前に開示したり、自由に選べるなんてことも。
 じきにインターネットのオークションサイトが活用されるようになり、これまた一世を風靡する。
 そしてスマートフォンの普及と高性能化によって、更に進化。
 専用アプリを用いて、誰でも気軽に売り買いが出来るようになって、動きが一層加速する。

 形をかえ品をかえ、なんだかんだで福袋は脈々と受け継がれてきた。
 当初は衣料品がメインだったのが、食品やらおもちゃに家電、旅行などありとあらゆる業界が特需にあやかろうとノリに乗っかった。
 隣の店がやれば、自分のところもといった具合に、個人商店も福袋特需にあやかろうとする。
 結果、たいていの店に福袋、もしくはそれに相当する品が並ぶようになり、すっかり目新しさも失せてしまう。
 おかげで一時期、かつてほどの勢いが失せたことがある。
 有象無象が参入したことにより、明らかに在庫処分、売れ残りを詰めたような悪質なモノが横行したのも原因のひとつ。
 が、これを憂いた勇士が立ち上がる。より厳選された品を入れるようになり品質を飛躍的に向上させた。
 評判が評判となり、ふたたびV字回復!
 現在では海外からも、福袋を求めてお客さんがやってくるんだとか。

 ミヨちゃんの住む町の商店街にある雑貨屋もまた、福袋を販売。
 五千円、三千円、千円、各五十袋限定。
 ここのお店は主人が独自のルートにて仕入れてきた品が、ごっちゃになっているので有名なところ。安くて掘り出し物があり、宝探し感覚でショッピングが楽しめるので、知る人ぞ知る穴場スポット。
 ミヨちゃんとヒニクちゃんも日頃からお世話になっている。
 今回は千円の福袋をゲットするために、朝も早くから列に並んでいた。
 千円のやつは小物雑貨にて、かわいいキャラクターのノートやペン、ニオイ消しゴムなんかがたくさん入っているので、去年も並んだ幼女たち。
 そりゃあデパートとかに出かければゴージャスな福袋があるのはわかっている。
 だがあそこは戦場だ。
 生半可な覚悟で子どもが近づいてよい場所ではない。いいや、たとえ覚悟があっても近寄るべきではない。たぶん跳ね飛ばされて病院送りにされるから。
 いかに獅子とて勢いよく駆けるヌーの群れには成す術がないのと同じ。
 欲望に目をギラつかせた大人は怖いのだ。

「はぁ」

 吐く息が白い。ほっぺを真っ赤にしたミヨちゃんが「もう少しだね」と笑う。
 それを見ておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「福袋の原型は江戸時代にさかのぼるらしい」

 日本橋呉服屋越後屋さんの「えびす袋」が発祥とのこと。
 もっとも当時は切れ端の処分を目的としていたらしいから、
 そういった意味では精神と伝統もしっかり受け継がれているのかも。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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