ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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609 虹

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 朝から空を見上げれば曇天。
 かといって真っ暗というわけではない。
 白と灰色と黒が入り交じっている。
 霧雨が降ったかと思えばすぐにやむ。けれども気温差のせいか、ほわんとモヤが出現。
 山の方に視線を向ければ、水墨画のような幻想的な風景。
 おもわずミヨちゃんは足を止めて、「ほぅ」と感嘆。
 しかし朝の忙しい時間帯につき、街の住人たちは足早にスタスタと過ぎていくばかり。
 手にしたスマートフォンを熱心に見つめつつ、足元の水たまりを器用に避けての通勤通学。
 歩きスマホはよくない。
 との見識は広がりつつあるものの、無くなるまでにはほど遠いのが現状。
 かつては人混みの中であってさえも、歩きタバコが珍しくなかった時代があったというし、歩きスマホが姿を消すまでにはまだまだ時間がかかりそう。
 やたらと目の敵にされて税金をかけられまくり、条例で禁止され、健康志向が高まって禁煙ブームとなり、愛煙家が激減し、ようやく。

「スマートフォンにもそのうち税金がかかるのかなぁ。NHKあたりがナンクセをつけそうだし、資源や処理とか環境問題がどうとか適当に理由をつけて、やりそうな気がする……」

 近い将来に思いを馳せつつ、通学路をテクテク歩くミヨちゃん。
 じきにクラスメイトを見つけて、「おはよー」と駆けていった。

 そんなことがあった日の授業中。
 小雨が降ったと思ったら、雲間から光が差す。もわんと白い霞がかかったかと思えばピュルリと冷たい風が吹いて窓ガラスをカタカタ鳴らす。
 不安定にて気まぐれな天気にて、どこか子どもたちも落ち着かない様子。
 そのことには担任のヨーコ先生も気がついていたが、努めて平常通りに授業を行う。こういうときこそ慌てず騒がず、粛々と。
 だというのに、唐突に誰かが言った。

「あっ、虹だ!」

 生徒たちの視線が黒板から一斉に窓の外へと向く。
 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
 七色の太めの虹が薄ぼんやりと空にかかっている。
 虹の橋が学校にわりと近い位置に降りているように見えて、子どもたちが「おぉー!」とテンションがぐんぐんアップ。

「虹の橋ってなんだかステキ」
「絵本とか物語では定番だものね」
「ふしぎな世界につながってるんだよねえ」

 なんぞと女の子たちが和気あいあい。

「いくら追っかけても根元にたどりつかないんだよ」
「フォースで水を撒いても出るけど、ちょっとちがうんだよな」
「やっぱり本物は迫力がちがうぜ」

 なんぞと男の子たちがギャアギャア騒ぐ。

「アレは光のくっせつで、そう見えているだけさ」

 中には賢しらなことなんかを口にする子もいたりして。
 すると「パンパン」と手を叩いたのはヨーコ先生。

「はいはい、まだ授業中なんだからその辺にしておきなさい」

 教師としては当然の対応。だがここで余計なひと言をぽつり。

「そういえば虹の橋って話があったっけか。たしか死んだペットがどうたら……」

 亡くなったペットが虹の橋を渡って天国へ。
 そして飼い主がいずれ現世からバイバイしたら、その橋のたもとで再会できる。
 みたいな話。
 とってもいいお話にて、ペットと死別した飼い主さんたちの心を慰めてくれる。
 救われた人もきっと多いはず。
 だからとてこのタイミングで持ち出すのは、ちょっとちがうんじゃないのかなぁ?
 と子どもたち。ひそひそ。

「こういうところがダメなんだろうね」「だから彼氏ができないんだよ」「きっと夜景とか見ても、何も感じないタイプだ」「ウソでもステキって言っておけばいいのに」「ああいのを塩対応って言うんだぜ」「モテなくてあたりまえ」「こりゃあ、今年もダメだな」

 キレイな虹から、まさかの教え子たちからのダメ出しを受けて、ヨーコ先生が「うぅ」と涙目。
 それを見ながらヒニクちゃんがぼそり。

「女は男に現実を見るが、男は女に幻想を抱く」

 女はみんな乙女回路を標準装備。
 男はみんなロマンティック回路を標準装備。
 どちらも妄想を燃料として起動。
 そして夢見がちなのは、どちらかと言えば男の方。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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