ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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613 地下遊戯

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 小学校の体育館の舞台下。
 長テーブルやパイプ椅子などを収納しておけるスペースになっている。
 大人だと中腰になっても、頭をぶつけてしまう程度の天井の低さ。
 しかし小学校二年生だと、程よい高さの空間。
 ふだんは立ち入れない場所というものは、やたらと魅惑的に映るもの。
 だからとていつもはイスなどがパンパンに詰まっているから立ち入れない。
 だがチャンスは唐突に訪れる。
 週末の夜の体育館にて、何やら生徒の親御さんらが集まっての会合があった。
 定期的に開かれている報告会みたいなもの。
 いつもならば終わった後に、先生たちや父兄の有志たちが率先して片付けるのだけれども、あいにくと昨夜は雨がざあざあ降り出したのもので、遅くなって何かあったらたいへんだと、片付けは次の日に持ち越し。
 で、翌日、体育の授業にて体育館を使う予定であったのがミヨちゃんのクラス。
 けれどもズラリと並ぶイスやテーブルで使えやしない。
 だからみんなで片付けることになったのだが、いかに担任のヨーコ先生から命じられたとはいえ、大人たちの尻ぬぐいを無条件で引き受けるほど子どもたちはお人よしではない。
 そこで前々から気になっていた探検の許可を求めたところ、「まぁ、ちょっとぐらいなら」となった。

 特大の引き出しのようになっている舞台下。
 開くと同時に内部に設置されてある白色灯が点灯。
 内部が薄ぼんやりと照らされている。
 中腰になっておそるおそる入っていくミヨちゃんとヒニクちゃん他数名。
 言い出しっぺなので一番槍の栄誉を賜ったものの、腰は完全に引けている。
 狭い空間というのはワクワクするのと同時に、ちょっと怖い。
 独特の圧迫感と雰囲気が苦手という人も多いんだとか。
 かと思えば狭いところが落ち着くというネコみたいな人もいるけど。
 床は打ちっぱなしのコンクリート。天井はステージに面しているので板張りだが、立派な梁が通っており、頑強な造りとなっている。
 一歩入ったとたんに空気が変わった。
 ひんやり肌寒く、そのくせ何だかホコリっぽい。体育のマットと似たようなニオイがして、おもわず「くちゅん」と可愛いくしゃみをしたミヨちゃん。
 とたんに響く声に、探検隊一同ビクリと驚かされてしまう。
 体育館の舞台にはとくに仕掛けがあるわけではないので、演劇のようにせり上がりや奈落なんかはない。
 あるのはただの収納空間。
 だから探検はすぐに終了。
 それでももぞもぞと穴倉から出てきたときの達成感たるや、得も言われぬものがある。
 あとカビと湿気とホコリに満ち充ちた空気から解き放たれ、新鮮な空気を吸ったときの感動も貴重な体験。
 いかにも「冒険から帰ったぜ」感を漂わせ、ミヨちゃんはムフンと満足げに鼻から息を吐いた。

 安全が確認されたところで、順次、舞台下探検へと旅立つ教え子たちを見守っていたヨーコ先生。そのうちに自分もやってみたくなったのか、ウズウズしだし、ついには野球のキャッチャーのような姿勢にて、よちよち入って行った。
 そしてしばらくしてから「ガン!」という音。
 何が起こったのかなんて言わずもがな。
 ミヨちゃんたちが「あっちゃー」と心配するのを尻目に、ぼそりとヒニクちゃん。 

「子供っぽい大人って、迷惑な大人ってことだから」

 たまに公園のブランコに揺られていたり、滑り台の先っぽで
 ぼんやり三角座りをしている大人を見かけることがあるけれども、
 アレって目撃すると、子どもとしては反応にちょっと困るの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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