ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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615 ぽんず

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 好きな具を選んで、小鉢によそってハフハフ食べる。
 親しき者たちで囲むお鍋は身も心も暖めてくれる。
 世間はお一人様ブームにて、ボッチ鍋なんてモノもあるらしいが、そんなものは大きなグラウンドを借り切って、一人でサッカーボールを蹴っているようなもの。
 チームを組んで、チーム同士で対戦した方が面白いに決まってる。
 だから鍋の醍醐味を味わうのならば、やはり複数プレイが欠かせない。

「他人と同じ鍋をつつくのなんて気持ち悪い」

 とかぬかすヤツもいるが、そんなヤツにはこう言ってやる。

「心配するな。相手の方こそそんなしょうもないことを言うアナタを嫌っているから」と。

 入れる具材に出汁の味付けの組み合わせは自由自在にて、鍋の中には無限の可能性が広がっている。そこは食の大宇宙。

「わたしは思うんだよ。お鍋とは和式ビュッフェなんじゃないのかと」

 下校中の寒空の下。
 キャラメル色のくせっ毛が、冷たい風を受けてピロピロ揺れるのもかまわずに、仲良しのヒニクちゃん相手に、熱く鍋愛を語っていたのはミヨちゃん。
 冬になるとやたらと鍋が食卓にのぼる。
 でも鍋のバリエーションが多いので、飽きることがない。
 キムチ鍋とかの辛いのはちょっと苦手だが、カレー鍋はイケる。
 さすがに小さな子がいる家庭なので、火鍋みたいなヤバいのが登場することはない。
 カニはめったに見かけないが、トリ団子があればお子さまはごきげんさ。

「でも、水炊きをしたときにちょっと困るのがポン酢なの」

 具を小鉢によそう。
 よそってからぼたぼたとポン酢をかける。
 ウマウマと食べる。小鉢が空になったら次をよそう。
 でも二度ぐらいくらいくり返したら、すっかり味が薄まるので、またポン酢をかける。
 しばらくすると白菜なんかの水分のせいで、やっぱり薄まるので……以下略。

「ちゃんこ鍋とかなら味がついてるでしょう? だからよそって食べるだけでいいの。たまに薬味なんかで味に変化をつけるぐらいで。けれどもポン酢はダメなの。すぐに薄まっちゃうから、そのたびにドボドボ。すると小鉢がちゃぷちゃぷになっちゃう」

 ならば中身を捨てるなり、飲み干すなりすればいいのだろうにと思うヒニクちゃん、首を傾げるのだが、どうやらことはそう簡単ではないらしい。
 具材から染み出た水分は栄養の塊。
 鍋の締めに雑炊とかすると、むちゃくちゃウマい。
 だから小鉢の汁もまた同様。
 けれどもポン酢もかなり投入されており、塩分方面にて不安が残る。
 かといって粗略には扱えない。けれどもグビグビ飲むには抵抗を感じる。
 とはいえまさか鍋に戻すなんて外道なマネはできない。

「インスタントラーメンとかの残り汁もそうなんだけど、処理に困っちゃうの」

 祖母の薫陶よろしく、食べ物を粗末にすることは悪だとの認識を持つミヨちゃん。
 だからこそ悩ましい。
 もっともそんな彼女のおばあちゃんは、鍋の小鉢については容赦なく捨てているが、お年寄りには「健康のため」という免罪符があるので、気にしない。
 アレはダメだけど、コレはいい。
 その見極めがムズカシイとミヨちゃん。ポン酢問題を筆頭にしておおいに悩む。
 これを受けてミヨちゃんがおもむろに口を開いた。

「パスタにポン酢もうまい」

 ポン酢は万能調味料にてポン酢文化とポン酢愛は、
 西国へと行くほどに強く濃くなっていくんだとか。
 古来、ポン酢は食前酒として飲まれていた。
 つまり西洋でいうところのワインと同様。
 ならば和式ビュッフェとかいう言い回しも当たらずも遠からず。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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