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646 だいがく
しおりを挟む雀荘、カラオケ、ビリヤード場、ボーリング場、ゲームセンター、喫茶店、ファーストフード、マンガ喫茶、居酒屋、バー、レコード店、書店に古本屋……。
大学の近所には土地柄から、学生たちのたまり場になるような施設が昔から多い。
どこもリーズナブルにて、お店によってはオールナイトなんてところも。
若いのが集まるから賑やかで騒動が多いものの、さりとて重大な事案に発展することはあまりない。
大学生にもなれば、相応に分別もあり、また自分たちの仲間が問題を起こせば、そこから影響が全体にも波及することを心得ている。
いつの頃からか、先輩より後輩へと代々申し渡される伝統のごとく、盛り場での遊び方が伝授され、なんとなく規範が根付き、自浄作用みたいなものが機能するようになった。
とはいえ、常日頃から腐れ学生がうろうろしている界隈には、独特の空気が漂っている。
院生である長兄のヒロ兄ちゃんに付き合って大学にお邪魔したミヨちゃんと、その親友のヒニクちゃんは、少し顔をしかめる。
「クンクン。……気のせいかな。汗が酢えたようなニオイがするよ」
ミヨちゃんがそんなことをつぶやく。
するとヒロ兄ちゃんは言った。
「それは大学生のニオイだよ。彼らは日々、勉学に勤しんでいるから、つい身の回りがおざなりになるのさ」
しばらく校内を歩いていると、ベンチにて腹を出して寝ている学生らしき姿を発見するミヨちゃん。その近くにはくしゃりと潰されたビールの空き缶がいくつも転がっている。
「あのヒゲもじゃさんは? あれも学生なの?」
指差しながらミヨちゃんにたずねられてヒロ兄はこう答えた。
「あれは研究生だね。何日も研究室に泊まり込んで頑張ってるから、たまにああやって息抜きをしているんだよ。だからそっとしておいてあげようね」
なにやら赤ずきんちゃんを騙すオオカミのようなやり取りがしばし続く。
さらに歩いていくと、春になると見事なサクラが咲いて、新入生たちをお出迎えするという区画に出る。
あいにくとまだ咲いてないので、現時点ではただの枯れ木もどき。
その枝の下をテクテクと歩いていると、円陣を組んで、天に向かって両腕をかかげて、何やら念仏を唱えている集団と遭遇。
ビクリとしたミヨちゃん。「アレは何?」
「あー、アレか。えーと、たぶんUFO研究会かな? 円盤に呼びかけてるらしいけど……」
さすがに上手い言い訳が思いつかず、返事を言い淀んだヒロ兄ちゃん。
しかし話を聞いたミヨちゃんは「UFOって呼んだらくるの? スゲー! 大学スゲー!」と妙なところに喰いつく。
でも通りすがりの幼女からキラキラしたまなざしを向けられて、円陣に加わっていた若者たちは、はっとなる。
キレイな泉の水面は、のぞき込む者の姿を如実に映し出す鏡。
ミヨちゃんの純真無垢な瞳を通して、現在の己たちのマヌケさに気づいてしまった彼らは、急にモジモジしだした。
なんとなく彼らが気の毒になったヒロ兄ちゃんが「ほら、食堂へ行こう。うちの学食ってパフェとかのスイーツもやってるから、期待していいぞ」と愛妹とその友人を急かす。
甘味と聞いて、すぐさま興味をそっちに移したミヨちゃんたち。
あっさりUFO関連のことを忘れた。
なおこの日、大学から怪しげなサークルが一つ消滅し、数名の前途ある若人たちを救ったことをミヨちゃんが知るよしもない。
昔ながらの学生食堂にて仲良く白玉ぜんざいをすする一行。
「大学ってへんてこなところだね」とミヨちゃん。
これに「ぶほっ」と汁粉を噴いたヒロ兄ちゃん。
そんな兄妹の姿を横目に、静々とお椀と向き合っていたヒニクちゃんが、ぼそり。
「学問も学生も大学も、少し熟れているぐらいがちょうどいい」
キレイな寮、オシャレなカフェ風の食堂、ステキな外観の校舎。
学生集めに必死なのはわかるけど、肝心の中身がないと。それにしても
大学の先生の部屋って、どうしてああも散らかっているのかしら。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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