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662 じせい
しおりを挟むサッカーボールを追いかけて、緑の芝の上を駆けまわる乙女たち。
本日は、女子サッカーの練習試合の日。
クラスメイトで仲のいいお友だちのリョウコちゃんが、出場すると聞いて応援にかけつけたミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
実力伯仲にて、大きな大会とかで何度も競う両チーム。
だから試合も一進一退にて、白熱の展開が続く。
パスを受けたリョウコちゃん。
すかさず敵選手がボールを奪いにくる。
リョウコちゃんは敵選手を中心にして、弧を描くようにして左右に動く。
足が届きそうで届かない微妙な距離をキープ。
これに焦れた相手が突出したところで、スイと逆をついたリョウコちゃん。
脇をすり抜けるようにしてかわし一人抜き。
ドリブルが加速する。
自陣深くへと迫るリョウコちゃんにあわてた、敵チームのキーパー。すかさず声を張り上げて、「止めろ」と味方を動かす。
左右からの追っ手に挟まれるリョウコちゃん。
けれども不意にピタリと止まった。
一気呵成に攻めていると思ったところの急制動。
なまじ全力疾走していた分だけ、敵の二選手はやや反応が遅れる。
挟み撃ちにするつもりが目標を見失い、何も挟まないままでサンドイッチ。
二人がまとまったところで、右へと鋭角に切り込んだリョウコちゃん。
ズバッとこれを抜き去る。
まさかの三人抜き!
試合の応援に駆けつけていた面々が湧きに湧いた!
みんなの注目がリョウコちゃんに集まる。
が、それすらも計算のうちであったと、すぐに知ってミヨちゃんとヒニクちゃんはびっくり。
誰もが颯爽とボールを蹴っては駆けるリョウコちゃんにくぎ付け。
その間隙をぬって放たれたのは超低空のパス。
受け取ったのは、いつの間にか左サイドから敵ゴール前へと走っていた味方の選手。
タイミングがドンピシャにて、トラップの後にキレイに振り抜かれた右足が、ゴールネットを揺らした。
「よっしゃー!」と叫んだのは選手じゃなくって、ベンチの監督。
ここのところライバルチームとの選手層の厚さに、煮え湯を飲まされていたので先制点奪取に大はしゃぎ。
リョウコちゃんらはシュートを決めた味方選手に駆け寄り、熱烈に祝福。
客席の応援も大盛り上がり。
けれども点を決められた方は、シーンとしたまま。
ふつうならば「しっかりしろ」とか「がんばれ」と指示や応援、怒号なんかが飛び交いそうなものなのに……。
あまりにも静かすぎて、かえって気味が悪いほど。
これに違和感を覚えたミヨちゃん。「相手チーム、なんだか不気味だねえ」とこぼす。
すると幼女の発言を小耳にはさんだ、そばのマダムが教えてくれた。
「あー、あれねえ。なんでも選手の親にうるさ方がいて、あれこれ注文をつけるうちに、ダンマリになっちゃったって話しだよ」
口やかましく、アレコレと難癖をつけ、ついには指導方針から応援の仕方にまで文句をつける。
一笑に臥して無視したいけれども、けっこうなスポンサーらしく、そうもいかない。
で、結果があの体たらく。
この話を聞いて「あきれた」とミヨちゃん。
するとおもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「体罰問題の余波がおもわぬところに悪影響」
某有名高校のバレー部や、サッカー部、野球部なんかで露見する、
行き過ぎた指導、苛烈な体罰の数々、はては自殺騒ぎまで。
暴力は論外だけれども、指導の熱を封じるのはちがうと思う。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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