ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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697 てつがく

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 諸事情によって図書館も閉鎖中にて立ち入り禁止。
 けれども貸し出しはやっている。
 図書館の職員の方が選んだ書籍をつめた「お楽しみ袋」にて。
 年齢とジャンルを希望すれば、八冊を包んでくれる。
 このチョイスがなかなか渋いと好評。
 ウワサを聞きつけてミヨちゃんとヒニクちゃんも、サービスを利用してみることにした。

 さっそく図書館の外に設置された特設受付にて手続きをすませて、袋を受け取る。
 で、最寄りの土手へと向かった二人。
 河川敷へと降りる階段は腰を降ろすのにちょうどいい。ここで袋を開けてみることに。
 ヒニクちゃんは雑学系を所望し、ミヨちゃんはモフモフな動物系を所望。
 絵本に児童書、ユニークな着眼点の図鑑などが入っており、二人は「へー」「ほー」と興味深げに中身を検める。
 その中で、何故だか袋の中に子ども向けの哲学の本が入っていた。

「なぜにてつがく?」

 動物とはまるで関係のないテーマの本にて、首をかしげるミヨちゃん。ひょうしにクセっ毛のはしがピロロンと跳ねた。
 でもヒニクちゃんの袋にも、似たような本が一冊入っていたことから、おそらくは図書館の人の意図によるものと二人は推察。

「これを機に、いろいろ考えろということなのかしらん」

 つぶやきながら哲学本のページをぺらぺらめくるミヨちゃん。

「えーとなになに。夢を見るのも、未来に希望を抱くのも、わいてくる絶望すらもが、人に生まれた特権である……か。ふむふむ、たしかにそうなのかもしれない」

 子どもにもわかるように、原文を砕きまくって、平仮名メインで簡素に書かれた文章。
 おかげで小学二年生の二人にも読める。
 まぁ、だからとて理解できるかどうかは、また別の話なのだけれども。
 適当に内容を拾い読みしていたミヨちゃん、ふと、お楽しみ袋に同封されてあった動物図鑑に目をやり、しばし固まった。
 ヒニクちゃんが怪訝な顔をしていると、ミヨちゃんがぽつり。

「むかしのてつがくの人は、人に生まれた特権って言ってるけど、それって本当なのかな?」

 あれこれ、ぐちゃぐちゃ考える生き物。
 喜怒哀楽に振り回されて右往左往。そのくせちっとも学ばず、反省もせず、同じ過ちをくり返す。
 それが人間。
 複雑な思考をこなし、豊かな心を持ち、人類はいろんなことを成してきた。
 それは確かに人の特徴であり、特権であるとも言える。
 けれどもそれって人間が勝手にそう思っているだけだとしたら、どうであろうか?
 ネコやイヌには感情があり、いろいろ考えているし、夢を見ることも広く知られている。
 カラスやイルカやクジラには独自の言語があるとも聞く。
 トリや虫たちの中には、メスの気を引くためにがんばるオスの姿が多い。
 つまり彼らもまたいろいろ考えて生きている。
 もしかしたら、そこには人間と同等か、それ以上の思考が介在しているのかもしれない。
 ただ人間たちがそれを理解できていないだけで……。

「あれ? もしかして、てつがくって、とってもこうまんちき?」

 自己の内面の宇宙を見つめることで、より真理に迫ろうとする思考の着地点が、まさかの墜落まがいの不時着をしたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「無知の知」

 紀元前四百六十年頃の哲学者ソクラテスさんの言葉。
 意味は自分が無知であることを知っていること。
 かんちがいしてんじゃねえよ、バーカ。という戒め。
 これを座右の銘にしている政治指導者、どこかにいないかなぁ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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