ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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701 ふらい

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 スーパーマーケットの総菜売り場が、この頃、ちょっと変わった。
 かつてや山と積まれたコロッケや天ぷらなどが、ずらっと置かれてあったのに、それが消えた。
 好きなのを選んで詰める形式が無くなり、替わりにフードパックに入った品が並ぶように。

 このセルフ販売形式。
 買う側からすると、個数や種類を好きに選べてとっても便利。
 いいニオイがするし、見た目もおいしそう。購買欲がむくむく。空腹時の破壊力たるや、凄まじいものがある。
 ゆえに販売側からすると、とってもメリットのある形式ともいえる。
 なによりインパクトがちがう。訴求力がちがう。あと、ついでに売り場の管理がとっても楽ちん。
 双方の思惑が一致。長らくスーパーの総菜コーナーの代名詞となっていた。
 が、一方で誰もが見かけるたびに、頭の片隅をちらりとよぎっていたのは……。

「これって、衛生的にはどうなのかしらん?」

 店内には絶えずお客たちや店員の姿があり、わりとせわしなく動いている。
 奥さま方は顔見知りとおしゃべり。たまに子どもが駆けまわっていることさえも。
 もちろん空調やら、その他もろもろ。店側とてとっても気をつかっていることであろう。
 保健所だってきちんと仕事をしているので、おいそれということは起こらない。
 きちんと安全が保たれている。
 けれども、総じて、そういうポイントって外からだとわかりづらいもの。
 そして食品トラブルを引き起こすモノって、たいていは目には見えない相手。
 見えない敵、見えない理由、見えない対応。
 わからないから不安になる。
 きちんと説明を受けて、ちゃんと理解しても、やっぱり不安が残る。
 しかし時間の経過とともに、その辺の感情が薄っすらとしていき、いつの間にかシレっと利用するようになり、「まぁ、いっか」がが日常となる。
 身の回りなんて、日々の営みなんて、だいたいがそんなもの。
 なのにそんな日常があっさり失われてしまった。
 変化としては、些細なこと。とりたてて問題視することでもない。
 けれども、ちょっとさみしい。

「あとからあとから、いろいろ出てくるよね」

 ミヨちゃんがぽつり。
 末孫のつぶやきを耳にしたおばあちゃん。

「まぁねえ。これだけ複雑にいろいろ絡み合った時代だから。明後日の方向で起きたことで、思わぬところが影響を受けたりするもんさ」

 あちらが転べば、めぐりめぐってこちらも転ぶ。
 連鎖倒産なんてことがあるように、自分がまっとうにやっていたからとて、思わぬところから伏兵が「えいや!」
 とかく暗殺は防ぎにくく、いかに豪の者とて対処がムズカシイのは、古来より名立たる英傑たちの死が証明している。

「とはいえ、ひと昔前に戻るだけのことさね」

 ひたひた迫る得体のしれない何かにちょっとおびえるミヨちゃんに、カカカと笑ってみせるおばあちゃん。
 かつてコロッケといえば、肉屋か揚げ物屋で買っていたもの。
 声をかけてから、「あいよ」と店主が揚げるスタイルが主流だった。
 それがより便利に、より手軽に、よりスピーディーにという現代のスタイルに合わせて変化してきた。
 ほんの少し前まで、セルフな売り場なんてなかったし、透明なフードケースなんてなかった。輪ゴムだってサービスしてなかったくらい。
 ショーケースの中身を選んで、揚げてもらい、熱々を紙袋なんかに包んでもらっていたもの。
 環境問題とかを加味すると、いずれはそこまで戻ろうのでは? とミヨちゃんのおばあちゃんは推測。
 この祖母と末孫の会話をかたわらにて、じっと聞いていたヒニクちゃん。おももろに口を開いた。

「人間が持つ最大のチカラは順応力」

 金がなければ金がないなりに人生を謳歌する。
 便利な環境にどっぷりつかる一方で、不便な環境にも
 わりと早く慣れちゃう。人って自分で思っているより、ずっと図太い。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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