ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

709 あにまる

　
　ネコはかわいい。
　仕草がかわいい。ツンデレなところがかわいい。舌がざらっとしているけれども、そこもかわいい。肉球はぷにぷに。尻尾は長いのと短いのがいるけれども、どちらかというと長いほうが好み。
　イヌはかわいい。
　全身全霊にての愛情表現は、いかなる疲れをも吹き飛ばす。好き好きオーラが泣けてくる。大きさにもよるがどっしりした安定感がいい。抱いていると温もりに癒される。口と牙がわりとごついのに、舌の感触はとっても柔らか。散歩に付き合っているうちに、知らず知らずのうちに健康になれる。
　インコはかわいい。
　案外よくしゃべる。案外よく動く。案外かしこい。案外表現豊か。かなり長生き。首の動きが独特。油断すると高確率で逃げるから戸締りに注意。
　ハムスターはかわいい。
　エサを頬張る姿がかわいい。カリカリとひまわりの種を食べる姿がかわいい。だからとて調子にのってそればっかり与えていると太る。けれどもちょっと太った姿もまたかわいい。夜行性なので夜中にカラカラ車輪を回すので、びっくりするけれども慣れればへっちゃら。
　ウサギはかわいい。
　なんだかんだでちょっと大きいネコぐらいもある体がかわいい。かつては毛皮が重宝がられていただけあって毛並みがかわいい。抱き心地の安心感は他と一線を画するかわゆさ。鼻先や口元をいつもひくひくしているところがかわいい。耳が立っているのと垂れているのがいるけれどもどちらもかわいい。何を考えているのかよくわからないところもかわいい。ころころウンチもかわいい。
　パンダはかわいい。
　子どものパンダは文句なしにかわいい。白と黒の毛並みがかわいい。ころんころんしたカラダがかわいい。ぬいぐるみみたいでとにかくかわいい。一度はぎゅっと抱きしめたい。
　でも大人はちょっと……。あれはただのおっさん。たぶん、背中にチャックがあって怠惰なおっさんが入っている。もしくは怠惰なおっさんの魂が乗り移っているのにちがいない。
　コアラはかわいい。
　観光客に大人気でかわいい。抱っこして写真撮影に応じている姿がかわいい。けれども顔をよくよくみると、あれ？　小さい頃は親のウンチが離乳食がわりなところもちょっと……。世間一般ではかわいいと定義されているけれども、実際に動物園へ見に行くとほとんど動かない。だって夜行性みたいだからしかたがないよね。
　キリンはかわいい。
　あの首の長さ、他の追随を許さない独特のフォルムがかわいい。模様もかわいい。顔もかわいい。木の上の葉っぱを食べるためだけに根性で伸ばした首がかわいい。っていうかがんばれば不可能も可能になるんだと励まされるからかわいい。もしかしたバスケットやバレーボールをしたら身長が伸びるのも、キリンと同じ理屈なのかもしれない説がかわいい。あれがじつは筋肉の塊で、ケンカするときには首でどつき合うところもかわいい。
　ニワトリは……。
　微妙だけれどもヒヨコのかわいさを否定する人はいないはず。
　全人類にアンケートをとっても、ないと信じている。もしもいたら、そいつはヒトの皮を被ったちがう何かだ。

　どんな動物も子どもの頃は、基本的にかわいい。
　動物図鑑を眺めながら、かわいいについて熱く語るミヨちゃん。
　もっとも彼女の愛は一方通行。どういうわけだかモフモフ系から蛇蝎のごとく嫌われるミヨちゃん。恒温動物はほとんどダメ。前世の問題か魂レベルの話にて、個人の努力ではいかんともしがたく。
　けれども禁じられば禁じられるほどに想いは募るもの。
　そんな切ない親友の姿を尻目に、家庭菜園辞典を見ていたヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。

「女子高生のかわいいはあてにならない」

　青春は矢のごとし。コロコロ変わるのは乙女心と秋の空。
　かつては夢中になっていたかわいいも、時が過ぎれば、
　無視されるどころか気持ち悪がれたりさえも。
　とかく移ろいやすく儚いのが人という残酷な生き物。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。