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731 もんぜつ
しおりを挟む身近に潜む危険は、けっこう多い。
たとえば何げに開け閉めをしているドア。
うっかり指を挟んで「ぎゃーっ!」
たとえばタンスの角とか、置いてあるダンボールの角とか。
うっかり足の小指をぶつけて「あんぎゃーっ!」
男の人ならばズボンのチャックも危ない。
朝、寝ぼけた状態でトイレに入って、つい挟んだりしたら「うんぎゃーっ!」
これは女子でもあるある。ぷにっとした肉や皮を挟んだら「うんぎゃーっ!」
階段の上り下りも油断がならない。
忘れられないほど通った自宅の階段なのに、なぜだか最後の段を踏み外してガクン。「うぉっと!」としてヒヤヒヤ。
新聞に入っていたチラシをペラペラ。
指先がシュッとしてスパッ。見たら切れて薄っすら血がにじむ。「うー」
爪切りをパチパチやっていたら。
ついうっかり深爪をしちゃって「あイタタタタ」
もしくは指先のささくれを、横着して引っ張ったら、思いのほかに血が出るわ、ジンジン痛むわ。ほんのり腫れるわ。「地味につらい」
いちいちしゃがんで拾うのがめんどうで、横着したら。
とたんに腰から異音が「グキリ」
ちょっとした柵をぴょんと乗り越えようとしたら、まったくカラダが浮いておらず引っかかって、派手にすっ転ぶ。
むしゃこら機嫌よくオヤツを食べていたら。
グニャリと勢いよく噛んだのは自分の舌。「うぅ」
車から降りる際にゴツンと頭をぶつけて「あうち」
車に乗る際にもゴツンと頭をぶつけて「おぅ」
地面に落ちている小石を蹴飛ばそうとしてたら、目測を誤って固いアスファルトを直接蹴って足首がグキリ。「!!!」
熱いお茶にて舌が「あっちっち」
口の中をヤケドしているのに、うっかり辛い食べ物を食べてしまい「あーん」
ついでにクチビルまで晴れてタラコでセクシー。
日常に潜む危険。
いくら用心しても、たとえ武術の達人であろうとも、すべてを回避することはかなわない。
そして今日もまた、危険が幼女に牙をむく!
急に日中の温度があがってきたので、そろそろ扇風機を出そうかと考えたミヨちゃん。
ダンボールから出して、バラバラになっているパーツを組み立てる。
この手の作業は男の人に任せがちなのだが、ミヨちゃんはわりと好き。
だから自分の部屋の扇風機は自分で組み立てる。
物置からダンボールを「うんしょ」と引きずり出し、封をとき、発砲スチロールを抜いて、中身を取り出す。
何度もやっているので、いまさら説明書を見る必要もない。
鼻歌まじりで作業に精を出すミヨちゃん。
だがそこに油断があった。
手にした扇風機の外側のひとつが、つい手からポロリ。
で、落ちた先は自分の足、人差し指の中程。
ゴツンと鈍い音が鳴ったあとに、襲ってくる痛みに幼女、悶絶!
痛い。けど、切り傷とか打撲とはちがう痛み。カラダのどこから湧いてくるのか、よくわからない。どうにも表現にムズカシイ痛み。そして馴染みのない痛みは、筆舌にしがたく。
怒り、悲しみ、痛み、怒り、情けなさ、不条理に対する痛み、なんだコレという戸惑い。そしてマヌケな自分にも腹がたつやら。でも一周まわって、やっぱり痛い。
もう、いろんな感情が入り乱れて、プチパニック。
ぶっちゃけ折れたかと思った。
おそるおそる確認してみる。
無事だった。目立った腫れもない。
安心したけれども、痛みはジンジンジン。
おかげでびっこを引いて歩くことに。
「階段の上り下りが地味につらいの。あと靴下をはくとなんだか痛い」
怒りのやり場に困ったミヨちゃんは、電話をかけてヒニクちゃんに報告。
誰かに話すことでストレスは軽減されるのだ。
これを受けてヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。
「その痛み、末梢神経のせい」
手や足の指は痛みにとっても敏感。
他の部位とちがって神経が細く細かい分だけ、反応も過敏。
すべては身体の安全のための機能だけど。
まぁ、あの痛みは理屈じゃないから。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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