ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

748 みらくる

　
　いつものごとく仲の良い二人しての、下校中のことである。
　つい先日、ボヤ騒ぎを起こした家の前を通りかかった。
　しばらく二人して現場を見物していたところ、ミヨちゃんが知り合いの家のことを口にした。

　ミヨちゃんの知り合いのおじいさんの家はふしぎだ。
　建て増し建て増しにて、家の中に三か所も階段がある。
　大きなお屋敷ならばともかく、平均的な一戸建て住宅にて。
　それだから、内部はかなり変わっている。
　で、各々の階段をのぼった先には一部屋だけある。
　大きな仏間、洋風の私室、ベランダに面したコンクリート打ちっぱなしの灰色の部屋。
　ベランダはマンションの屋上のように、まっ平な空間があるだけ。そことても手入れをろくにしていないから、コケだらけ。
　雨上がりになるとコケが水分を吸ってじゅくじゅく。サンダルで歩こうものならば、ツルンと滑って腰を強打するから、危なくってしようがない。
　どうしてそんなヘンテコな家に住んでいるのかというと、彼のお父さんが気まぐれに建て増しをしたからである。
　もともとそういう癖があったらしい。
　そのくせ素人工事で、適当をやるから、結果として歪な家だけが残される。
　台所の床板は一見するときれいに見えて、裸足であるくとべたべたする。これは配管回りや通風を考えていないから、湿気がついこもりがちとなるせい。
　で、お風呂は狭い。
　が、これは設置された時代の影響。
　いまの寝てお湯に浸れるような広く浅い造りではなくて、四角って深いタイプの浴槽。
　壁は一面タイル貼りなのも当時の流行。
　そこまではまぁ、悪くない。けれども問題なのは脱衣所がないこと。
　繋がっている台所から丸見えにて、即お風呂場というナゾ仕様。これもまた湿気の誘因。
　トイレは和式。これも時代のせい。
　けっこうな段差があり、うっかり足がしびれて後ろ向きに倒れたら、バックドロップ状態にてかなり危険。
　かとおもえばガレージはがっつりコンクリートで固められた、シャッター付き。しかも全自動。車も持っていないというのに。

　まぁ、細々と欠点を連ねたが、住んでいる当人が納得しているのだから、問題はない。
　住めば都とはよくいった。
　けれどもひとつだけミヨちゃんが首をかしげていることがある。
　それは一階中央のリビングの床。
　緑色のぺらっぺらのカーペットが敷かれてあるのだけれども、それが黒い穴だらけなのである。

「ぜーんぶ寝タバコのこげあとなんだって。あんまりいっぱいあったから、一度、数えてみたの。そしたらなんと二百三十一個もあったんだよ！　いまはもうちょっと増えているかもしれない」

　ミヨちゃんの話を聞いて、ヒニクちゃんもおもわずのけぞらずにはいられない。それはあまりにもヒドすぎるもの。

「で、どうしてあんだけ不始末をしているのに火事にならないのよ。よそではタバコ一本やマッチ一本でひどいことになるのに。どうしてなのかなぁ？」

　ミヨちゃん、べつに燃えてしまえとは思っちゃいない。
　ただ納得いかないと首をコテンとかしげているのだ。
　これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「シケもくは、燃えない」

　シケもくとは、湿気ったタバコのこと。
　欠陥住宅ゆえに火事になるところもあるけれども、
　欠陥住宅ゆえに火事にならないところもある。ミラクル。
　でも病気になっていないところを見ると、絶妙な欠陥加減なのかも。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。